第一八〇話 下曲陽の県城周辺の探索開始だ

 攻城戦9日目。


 官軍が黄巾賊を攻めている間、私は今日一日を使い、率いている軍勢を用いて黄巾賊の兵糧庫を探させることにした。


 大人数で動けば黄巾賊に動きを悟られるので人選を行い二〇名程度の小隊を四つ作った。探索範囲は張角ちょうかくがいる下曲陽かきょくよう県城けんじょうから五〇里(二〇キロ)とした。


 何故、五〇里と定めたかというと少人数かつ馬に乗れる者ならば一日あれば往復できる距離だと判断したからだ。また、いくさが行われている最中なので悠長に探索に時間をかけるわけにはいかず、明日までに黄巾賊の兵糧庫が見つからなければ、兵糧庫はないものと判断することにした。


 そして、それぞれの小隊には東、西、北西、北東を探らせた。


 旗揚げ当初からの面子を中心とした程全ていぜん閻柔えんじゅうが率いる小隊は西の探索。


 呼銀こぎん率いる南匈奴みなみきょうど族は東の探索。


 田疇でんちゅう率いる、右北平ゆうほくへい郡出身(田疇の出身地)の小隊は北西の探索。


 そして、私が率いる小隊は北東の探索を行うことにした。


 北の探索に二つの小隊を向かわせたのには理由がある。下曲陽の県城の北側は川に面しているので川越えをしている最中に黄巾賊に見つかって矢で射撃されてしまえば一溜まりもない。また、南方から県城を攻めてる私達からすれば県城の北側を探索すること自体、危険性が高い。そのため、二つの小隊を大きく迂回させて北を探索させることにした。


「では行きましょう」


 『白来はくらい』に乗って駆け出すと、一九名の部下が付いてきた。私が身に付けている装備はいつも通り、直刀と弓矢である。


 下曲陽の県城を迂回するように北西へと駆け出すと、県城付近の激しいせめぎ合いによる喧噪は次第に聞こえなくなっていた。


 そして川を越えて、無事、県城の北側へと到達した。雑木林の中で馬を走らせながら、周辺を警戒する。


「このまま北西へと二五里(一〇キロ)走り、予定通り東に移動します」


「「「はい!」」」


 元気良いな。部下たちの勢いにちょっと気圧されてしまった。


 二五里駆け抜けた後、県城の真北に位置するように移動すると雑木林を抜け街道へと出た。


「周辺に黄巾賊の姿はありません!」


「把握しました」


 街道に出た以上、遠目から見ても私達の姿が丸見えなので部下に周辺を探らせていた。


 そして、部下がもう一人やってきた。


田佐軍司馬でんさぐんしば!」


 彼は田疇でんちゅうの小隊に組み込まれた男だ。


「何かありましたか?」


「いいえ! こちら側にもなにもありませんでした。後、田疇でんちゅう殿から伝言です。『予想より北側へと移動してしまったため、合流が少し遅れる』とのことです」


「分かりました。私達はここで待機します」


「では、俺はこれで戻ります」

 

 私達は街道に出たあと、田疇らと合流する予定だった。


 北西及び北東へと進んだのは黄巾賊の目を避けるためである。兵糧庫が見つかれば儲けものだが、あるとすれば輸送しやすい街道にあるだろうと思った。そのため、田疇らの小隊と合流した後は私が街道の北側に、田疇が街道の南側を探索する手筈となっていた。


 二刻後(三〇分後)。


「来ましたね」


「遅れてすまない」


 田疇が申し訳なさそうな顔で騎兵を率いてやってきた。


「私達が南側へとずれた可能性もあるのでお互い様ですよ」


「多分そうかもしれないな」


「おい」


「冗談だ冗談」


 田疇が冗談を言うとは珍しい。


 周囲の人間と打ち解けてきて自然体になっているのかもしれない。


「では予定通り私は北側へと移動しますが……田疇、南側へと進むと県城に近づきます。敵に見つかる可能性が高いのでご武運を」


「それこそお互い様だ、じゃあ行ってくる」


 私と田疇は互いに健闘を祈りながら再び、馬を走らせた。

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