第八四話 主演劉備、脚本田豫による宣伝
一昨日、激辛ロシアンルーレットが終わったあと、私は劉備と話し合って、戦力を増やすために義勇兵の別動隊として私が旗頭の部隊を作ると言った。劉備は手元に私を参謀として置いときたかったらしいが、快く了承してくれた。
現在、私は劉備と一緒に
県城の外には畑と農民達が住んでいる家があるが、先日の
歩いていると続々と農民達が集まってきたので人がいなくなった民家を背に劉備が話し始める。
「余が早く駆けつけていれば、ここまでそなた達の土地が荒れなかったかもしれぬ。申し訳なく思う」
劉備は頭を下げる。
「そ、そんな、貴方が来てくれたから私達は無事なんです」
「そうだ、頭を下げる必要なんかないぞ!」
「官軍の連中がしっかりしていればな」
ヘイトが官軍に向いている分、劉備の評価が上がっていた。
「皆のお言葉はありがたいが、余の気が済まぬ。心ばかりだが、この
劉備は農民たちの関心を私に向けさせる。
私は一礼し、両手を頭上近くでパンパンと叩くと、
「ほらよ、持ってきたぜ!」
「おお! これは」
「まさか贈り物というのはこれか!」
農民達が色めき立つ。
荷車の上には穀物が入った樽や山盛りの銅銭が載っていた。これらは昨日、
張飛に続いて
「皆さん、彼から決まった量の銅銭と穀物を受け取ってください。きちんと並んで受け取ってくださいね、順番抜かしをする人には渡しませんし、その時点で配布を止めます」
閻柔に手のひらを向けて、贈り物を彼から受け取るように促し、喋り続ける。
「これは全部、私の家で蓄えてきたものですが」
嘘である。杏家のものだ。
「皆さんが少しでも
と言いながら、私は右手を額に当て、左手を農民達に向ける。本当はちょっと苦しいけど、皆が助かるならそれでいいよ、というフリをし同情を誘ってみた。
なぜか、劉備らが怪訝な目で見てきた。
そして、農民達は、
「なんか嘘臭いな」
「貰えるものは貰うけどな」
「あれが噂の黄巾殺しか」
思ってたのと違う反応をしていた。
「
私はげんなりとした顔で劉備に不満を訴えた。
「日頃の行いが悪いのか?」
「そんなはずはないと思うんですが」
私の言葉に劉備は悩まし気な顔をした。
「恐らく……顔面の差では?」
「劉殿、あとでタイマン張りましょうか」
ふざけたことを言い出した劉備に一騎打ちを申し込む。
「分かった。
「タイマンの意味分かってる?」
殺す気か。
私と劉備が冗談を言い合っている間、農民達は閻柔から食料とお金を貰っていた。
私は閻柔に近づき、肘で彼を小突きながら、囁く。
(なんか忘れてませんか?)
(そうだった。茶番の時間だ)
(茶番言うな)
閻柔は私に突っ込まれたあと、劉備に話しかけた。
「そういや、
劉備は少し間を置いて、
「隠しているつもりはなかったが余は
前漢の第六代皇帝――
この閻柔と劉備のやり取りは予定通りである。自分で名乗るより人に聞かれて名乗った方が鼻につかないので私がこのやり方で劉備に名を広めることを勧めた。
劉備の発言によって農民達は敬意を表する。
「おお……あの景帝様の子孫であったか」
「どうりで人徳があるお方だと」
「ありがたや」
農民達は両手のひらを擦って劉備に礼をする。
「田豫」
「なんですか」
劉備は私の名を呼ぶ。
「気分がいい」
「思ってても口で言わない方がいいですよ」
私は劉備を
農民の中には、
「景帝って誰だよ」
「偉い人じゃね」
景帝や劉勝のことを知らない人もいたが、とりあえず劉備には高貴な先祖がいることが伝わればいい。
中山靖王・劉勝は子が五〇人以上、孫が一二〇以上いたらしく、子孫など山ほどいる。それに私からすれば劉備が本当に劉勝の末裔なのかは分からない。だが、真相などどうでもいい、誰も確かめようがないのだから。重要なのは真相ではなく、皇族として何を成すかだ。
無名の劉備が漢室の末裔であることを主張しても意味はないが、この乱で功を立てるたびに漢室の末裔であることを主張すれば影響力と存在感が生まれる。
腐敗した後漢とはいえ皇帝の権威だけはかろうじて保たれる。そこに実力が伴えば豪侠の士や民心を得ることができる。
後々のために、私達は
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