第一七八話 攻城戦の日々が続いてる模様

 結局、初日の城攻めは一進一退の攻防で終り、私達の出番はなかった。


 盧植ろしょくからは機会を窺って攻めよとは言われたのでこのまま軍勢を動かさなかったら日和見してると思われる可能性がある。


 そのため、騎兵を率いて二日目は城攻めに参戦したが、


「思ったより敵多いな!」


 閻柔えんじゅうは槍を振って、城壁から飛んでくる矢を跳ね返しながら声を出す。


「ええ、全くです!」


 私は閻柔の後ろから矢を放射線状に放ちながら黄巾賊の弓兵を討ち取り続けると、城壁にいる黄巾賊の弓兵が姿を消す。後方に下がったようだ。


 確証はないが嫌な予感がした。


呼銀こぎん! 前線に出て一撃離脱戦法をお願いします!」 


 呼銀がどこにいるのか分からないが大声を出して彼に指示を出す。


「あ、ああ! 敵が見えたら撃てばいいのか⁉」


「はい!」


 戸惑い気味の呼銀に応じながら私は前線にいる騎兵を後退させると、前線に呼銀こぎん率いる南匈奴みなみきょうど族が入れ替わるように出てきた。


 私が彼に指示したのは、前線に出てから後ろ向きに矢を放って後退するというお馴染みの騎馬異民族による一撃離脱戦法――パルティアンショットだ。


「背面撃ち用意!」


 呼銀の合図で私は南匈奴族と共に弓矢を構えた。


「――――見えました! 今です!」


 城壁から黄巾賊に弓兵が顔を出したので私は叫んだ。賊は数百人ほど一気に出てきた。彼らは一斉に矢を私のいる方角に向けていたのだ。


 すでに射撃準備を整えていた私達は城壁の敵が矢を放つより早く、射撃することができた。


「うああああっ!」


 城壁の上にいた黄巾賊は面食らってたのか慌てながら逃げようとするも、後ろにも弓兵の列ができていたため、そのまま矢の餌食になっていた。


 この日は敵の数を多く減らすことはできたが、成果はそれだけであった。


 攻城戦三日目。


 昨日は私達が最前線で戦ったのだが、今日は曹操が軍勢を率いて最前線で戦っていた。


 曹操そうそう声東撃西せいとうげきせいの計を用いて城攻めを行った。


 声東撃西の計とは、例えば東を攻撃するフリをして、敵が東に兵力を集中した際に、手薄になった西を攻撃する計略だ。


 曹操は東門を攻めるふりをして手薄になった西門を攻撃したわけだ。


 下曲陽かきょくよう城の西門側にいた黄巾賊は壊滅に陥ったものの城門を撃ち破る前に日が暮れてしまい、兵士の空腹度や士気を考慮した曹操は撤退した。


 そうこうしているうちに、瞬く間に八日が経過してしまった。


 この日は兵糧庫である南下曲陽城から兵糧を輸送している兵站部隊の警備にあたっていた。


 私は乗馬しながら兵站部隊と並走していると馬に乗った田疇でんちゅうが横に並ぶ。彼には周辺に敵影がいないか探らせており、今、戻ってきたわけだ。


「黄巾賊は近くにはいないぞ」


「お疲れ様です、田疇」


 私は彼の言葉に一安心する。


「にしても、張角がいる城なだけあって、賊の抵抗が激しいな。確実に相手の数を減らせてるのに一向に相手の城内に進入できる気がしない」


 田疇は気難しそうな顔をしながら遠い目をした。


「死を恐れずに賊達は突っ込んできてますからね。それに予想以上に敵の数が多いうえに気力が充実していますから消耗戦になります」


 賊は手負いの状態でも雄叫びを上げながら攻撃してくるほど勇猛果敢だ。それに敵の数が予想以上に多い。


「それは最初から分かっていたことだ。しかし、自分達には一騎当千の猛者、優秀な指揮官がいる。張角にいくら人々を引き寄せる求心力があったり、彼の周りに兵法に長けているものがいたとしても官軍と黄巾賊では、戦いの経験値が違う」


「うーむ、それはそうなんですが」


 一抹の不安が私にはある。


 今、戦っている相手が官軍と同等の兵力とまではいかないと思うが、仮に同等の兵力なら籠城している相手の方が有利だ。


「田豫、何を悩んでいるかは知らないが自分達はこの乱を数か月も生き抜いたんだ。数々の敵を撃ち破ってな……大将が自信を持たないと自分らだって不安に駆られるぞ。それにさっき言った、優秀な指揮官の中には田豫もいるからな」


「ふふっ、田疇、励ましてくれてありがとうございます」


 私はほくそ笑みながら田疇と拳を合わせる。


 少し心配性になっていたのかもしれない。彼の言う通り、今まで数々の賊を倒してきて、ここまで生き残ったという揺るがない実績がある。今は兵糧の警備をして、次の戦いに備えよう。

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