第一三九話 始まる城外れの激戦

 呼銀こぎん呼雪こせつが近づいてくるのが分かった私は馬ごと体を反転させて逃走するのを止める。


 もはや楊奉ようほう徐晃じょこうが私に追いついてくるのは時間の問題だ。そして、呼銀と呼雪を巻き込んでしまうのは必然だ。


 ここは三人で楊奉、徐晃らと戦う方向に切り替えるしかない。


 前方から馬を走らせてくる楊奉は破顔する。


「ようやく戦う気になったか!」


「ええ」


 とりあえず返事して、楊奉の方へと馬を走らせた。


「死ねえい!」


 楊奉は暴言を吐きながら斧を振り上げる。


「呼銀! こいつは任せる!」


「おうよ!」


 私は背後にいる呼銀に呼びかけて、楊奉の横を通り過ぎようとする。


「逃すか!」


 楊奉は振り上げた斧を横にいる私へと振るった。対して、私は片手を手綱から離し、上半身をくるりと翻して振られた斧を避けようとする。


「っ!」


 目と鼻の先を斧が通り過ぎた。


 正直、肝が冷えた。


 そのまま私は馬で走り去り、横目で悔し気な楊奉の顔を確認した。


「あんたは俺が相手する! それでいいよな!」


 呼銀が意気揚々と楊奉に戦いを挑もうとする声が聞こえた。


「ガキが!」


 怒鳴る楊奉の声。


 肩越しに遠ざかる二人の戦いを確認する。


 楊奉は斧で、呼銀は曲刀で、五合打ち合う。二人とも、体を左右に揺らして力任せに武器を振るっていた。次に呼銀は楊奉の周りを旋回しながら攻撃を加えた。楊奉は苦々しい顔で振るわれた曲刀を弾く。


 力は楊奉の方が上かもしれないが大きな違いはない。決定的なのは乗馬の技量だ。呼銀の方が圧倒的に馬を自由自在に操ることができている。


田兄でんにい、大丈夫⁉」


 呼雪は私に追いついて並走していた。


「私自身は大丈夫ですが、『白来はくらい』の体力が限界に近いです」


 私は心配そうに愛馬を見ていた。


「でも戦うんだよね」


「ええ、前から来ている青頭巾の男と戦います。ただ地上で戦うので『白来』を任せます」


「セツも戦うもん!」


 呼雪は目を細めて抗議する。


「馬を預けるだけですよ。むしろ、戦ってほしいです」


「ほんと!?」


 顔をパァっと輝かせる呼雪。


関羽かんう張飛ちょうひは尋常じゃなく強いってことは分かりますよね」


 私の言葉に呼雪は頷く。


「今から戦う男はその二人と同等……いや、機転が利くので同等以上の強さを誇ります」


「えぇ!」


 驚嘆する呼雪。


「遠方から射撃してください、なんとか隙を見つけて一撃を決めます……」


 尻すぼみに発言してしまった。


 徐晃に隙なんてできるのかなというのが本音だ。それでもやるしかない。


「分かった!」


 呼雪は快く私の作戦に乗る。


 私は矢筒を呼雪に渡す。さらに弓を手綱に引っかけて、『白来』を彼女に預ける。


 その後、私は森沿いを走ってきている徐晃を迎え撃つために駆け出す。すでに抜刀している状態だ。一方、呼雪は私から距離をとって、森の反対側を馬で走っていた。


田豫でんよ!」


 徐晃は私の姿を確認すると呼びかけてきた。


「徐晃!」


 弾丸のように迫ってくる徐晃は大斧を右斜め上から振り下ろそうとする。


 私も駆け出しながら左斜め下から刀を振るう。


「むっ!」


 徐晃は思わず声を出した。私は刀を最後まで振り切らず体の前で横に構えたからだ。


 振り下ろされる斧を受け止めようとした結果、私の体は後方へ二つ分吹っ飛ぶが、


「っと」


 難無く地面に着地した。


 彼とまともに得物を打ち合えば力負けすることは以前の戦いで分かった。かといって防戦一方になったところで勝てる見込みもない。呼雪との連携は必須だ。ここでとる戦法は攻撃を受けつつ呼雪の援護射撃で隙を見つけることだ。


 私は再び徐晃の攻撃を受け止めるために彼に真っ向から立ち向かった。

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