第一四話 生きる為に!
ある日の夕食時、食卓には何時も通りある穀物類と漬物類以外に目新しいものがあった。
それは肉! 肉だ!
醤油漬けされたガチョウの肉を炙って鉄串に刺したもの、白菜を添えた鹿肉の塩焼き、鶏の内臓を味噌で煮込んだもの。これらの肉類は私が狩ってきたものだ。最近では、週に一回のペースで
私が狩猟に取り組んでいる限り食卓に肉が頻繁に出てくるようになるはずだ。以前から身体作りには肉が必須だと思っていた。肉があるのと無いのでは大違いだ!
「はは! これは旨そうじゃ!」
父親が上機嫌である。食卓に肉が出てるせいもあるが、今は珍しく金銭的余裕があるからだ。なんせ夕食に使った味噌、塩等の調味料はわざわざ行商人から買ったものだ。
それもこれも狩猟のおかげだ。動物の毛皮は衣類の素材になり、
私の暗い顔を見て心配したのか母親が声を掛ける。
「どうしたんだい?」
「いえ! 少し呆けてただけです」
「少し調子悪いんじゃないのかね?」
「元気ですよ、ほら」
私は勢いよく漬物とご飯を喉に掻き込んだ。
「おやおや、喉に詰まるよ」
どうやら上手く誤魔化せたようだ。
うっ! 喉に詰まった! 死ぬっ! 心配かけないように平然とした顔をするんだ私!
私は口を固く結び、真顔でいた。そして、冷や汗を掻きながら、片手で掴める大きさの杯を手に取り口に運ぶ。私は杯に入った冷水を飲んだのだ。喉越しが癒される! 色んな意味で。
ふぅ……危ない。死ぬとこだった。一番のピンチだったかもしれない。
私は肉を口に含みながら再び後ろめたさを感じていた。何故なら、私が元いた時代では狩猟、乱獲によって特定の動物が既に絶滅していたり、絶滅危惧種として認定されてたりしていた。おかげで生態系のバランスを崩す始末だ。
私は狩猟の恩恵を実感すると共に生態系への悪影響を懸念していた。
しかし、気にしてたらキリがない事だ。この過酷な時代を生き抜くために、戦場での生存確率を少しでも上げる為に食らわねば! それにこの時代はまだ狩猟採取生活から農耕牧畜生活に移行している最中だ。
気を取り直して、勢いよく鉄串に刺さった肉を頬張る!
食らわねば! 死んでしまっては元も子もない!
更に肉を頬張る!
正直、こんなに意気込みながら食事する日が来るとは思わなかった。
「
上機嫌な父親の言葉に私は深く頷く。
朝は朝食の時間までに兵法書を読み、昼を挟んで農作業をし、午後は
夏が過ぎ秋となった。つまり
かくいう私も粟を守る為に弓を装備して畑の周りを歩いている。本来、子供の私が出る幕ではないが弓を扱えるという事で、家の畑を守備していた。それに畑の周りには両親や近隣住民が居る。よっぽどの事が無い限り危険な事にはならないだろう。そもそも町と近いし。
「あっち行け! しっしっ!」
大きな動物が来ることはなく、せいぜい雀が粟を狙いに来るだけであった。私は雀が飛んでくると近づいて追い払うという地味で面倒な仕事を
「日が暮れるまで、これやんなきゃいけないのか……」
私は辛さ故にぼやいた。すると、馬に乗った県の守備兵が遠くから近づいてくるのに気付いた。周りの大人たちも兵に気付き騒ぎ始める。
「守備の増援かね」
「まさか、こんな町近く俺達で十分だろう」
「もしかして、粟を狙ってきたりして」
「なわけないだろ」
「私を狙ってるに違いないわ! きっと一目惚れしたのよ!」
などと勝手な事を言ってた。
困った顔した兵に大人達が近づいて取り囲む。私も大人達の群衆に混ざって兵の話を聞く事にした。
「この辺りに
兵は私を指差して言った。
子供ながら読み書きが出来、兵法と弓術を嗜んで一目置かれてる私は県内に名前が知れ渡っていたがまさか、こんな所で引き合いに出されるとは。
「杏家って……まさか豪族の?」
ある人が尋ねると兵は頷く。すなわち肯定だ。
杏家……確か、
杏家は前世では聞いた事が無いので戦乱時に群雄の傘下となったか滅ぼされた家に違いない。
「何故いなくなったんじゃ?」
聞き覚えのある声がすると思ったら今度は父親が兵に話し掛けていた。
「少々お転婆な所があって……今、皆で狩りをしている時期なので屋敷にいるはずなんだが、どうやら侍女がお嬢さんに頼まれて馬に乗せて一緒に狩りに行ってる最中に行方知らずに――」
しばらく兵の話に耳を傾けていた。どうやら侍女が目を離した隙に居なくなったらしい。少なくとも私や周りの大人達は見てないはずだ。兵は話を終えると場を離れ、馬で駆け出す。
何にしろ私にはどうすることもできない話だなと、思っていると見知った顔が馬に乗って近づいてきたのであった。
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