第一五話 転生してから一番ツイてないかも
馬に乗って近づいて来た人物は
しかも何故か、彼は私を捜索に誘ったのだ。
一人で探せよ――
――と、思ったが杏家の娘を救ったら豪族との繋がりが出来るし、将来、資金や物資の面で手助けしてくれるかもしれない! うへへ。コネ作りに励むか。
私は弓を背中に背負い、左腰に矢筒を身に付けていた。更に、わざわざ家に戻って右腰に短剣を吊り下げた。私はかなり本気だ、コネづくり……じゃなくて捜索に。
今、馬に乗っている周琳の後ろに座っている。杏家の娘が行方不明になった山を登っていたのだ。馬の蹄が落ち葉を踏みながら歩を進める。しばらく登っていると紅葉色の山林に囲まれてしまい、馬での進退が不可能になったので私達は馬から降りた。
周琳は適当な木に馬を繋ぎ止めている。
「本当にこんな所にいるんですか? 悪路にもほどがありますけど」
私は気になる事を尋ねた。
「人が来る所に獲物はいないからって事で此処で狩りをしてたらしいんだ!」
「わざわざ敵地に入り込むなんて……」
「まっ、こんな所に連れて来た侍女の責任だな」
「ふむ」
その後、私達は山林の中を歩いた。どうやらこの先にある丘で侍女が目を離した隙に女の子が居なくなったらしい。
進めば進むほど険阻な地形になっている。何より木々の密度が高い。途中、何度か私達と同じく杏家の娘を探している兵士達とすれ違った。もうすぐ
来た道を振り返ってみると木の頭まで見えていた。どうやら、見晴らしが良い場所のようだ。
「いい景色ですね」
「だな」
「ここで居なくなったんですか?」
「話を聞く限り、ここかなと」
適当かよ。
「じゃあ私は丘の先に行って周囲を見渡します」
「どうぞどうぞ!」
私は周琳が居る場所から離れ丘の先へと行った。丘の地面は湾曲しており、その影響か周琳の姿は見えなくなっていた。お互いの声は十分届く距離なので何かが私を襲ってきたとしても大丈夫だろう。十中八九、周琳と一緒に逃走するだけになるだろうけど。
丘の先端も見晴らしが良く秋の景観が広がっていた。
「少し寒いな……」
私を両手を擦り合いながら地面に視線を移す。
「……ん? なんだこれ?」
丘の先端の地面は歪な形をしていた。まるで崩れたみたいだ。
私は歪な地面を手でなぞる。
もしかし杏家の娘は……丘が崩れて下に落ちて行ったのか?
耐久性を確認する為、片足で地面を踏みしめる。
「……結構頑丈だ。元々、この形なのか?」
ここから落ちたと考えるのは杞憂だったか。と思っていると。
ゴゴゴゴゴ!
地鳴りが鳴る。まさか地震か! 私はしゃがんで重心を整えようとすると
「うっ、うわ!」
丁度、私が居る部分だけ崩れ始める。
「まっまずい‼」
時すでに遅し。私はひっくり返り、秋の景観は逆さまになっていた。
「うわあああああああああああああああああああ!」
遠くから周琳が私を呼んでいた気がした。空を飛ぶ術が無いので私は丘の下へと落下し続けた。死に対する恐怖で私は目を瞑る。
――――私は死んだ。
そう思ったが体正面に柔らかい何かがぶつかった様だ。
目を開けて確認すると体の下に、何万もの落ち葉があった。どうやら落ち葉がクッションになってくれて地面への衝撃を和らげてくれた様だ。
あー助かった。ここ最近で一番ツイてない日かもしれない。
周囲を見渡すと矢筒に入ってた矢が散らばってたので回収する事にした。不幸中の幸いかうつ伏せに倒れたおかげで背中の弓は無事だった。仮に行方知らずの女の子が私の様に丘から落ちたとすれば、近くにいるかもしれない。
「よし」
私は気合を入れて移動し始めた。推測するに、山から下りようと考えれば、ここから下山しているかも知れない。
正直、今歩いている方向が山を下る方向なのかは分からないが。迷った子だって方角は分からないはずなので山に残っている可能性が高いと思われる。
「これは……」
地表から水が溢れている事に気付く。
湧き水だ。流れている水に沿って歩けば迷わずに下山出来るかもしれない。
さて……どうしようか。このまま降りて杏家の娘を探すのもいいが、一旦、丘の上に戻って周琳か他の兵士に協力を頼むのが一番かも知れない。
考えに考えた結果……よし、どっちもだ! 迷子を探しながら下山しつつ丘に繋がる道まで回り込んで他の人に協力を頼もう。
ぽきっ!
と何かが折れる音がした。更に地面を擦る音もした。誰かが近づいている!
太陽は雲に隠れ、辺り一帯は暗くなる。
「……何者ですか!」
私が叫んだ瞬間、木の裏から人影が飛び出してきた! しかも人影は右手に何かしらの得物を持っている! 構えなければ!
「とおっ!」
私は左手で右腰に吊り下げている短剣を抜き出し、相手が振るってきた得物に対抗する! そして、金属音が森の中で響いた。こいつは一体、何者なんだ⁉
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