第九六話 兵力差を覆す要素
夜中だが
その間、
「では意見をまとめましょうか」
斉周は今の話し合いでの意見を総括してくれる。
「私と
彼が語るのは現状、考えうる限りでの安全策だ。
簡潔にまとめると、陣形を組まない状態で背後を攻撃されれば全滅する。だけど、陣形を組まずに全力で逃げれば、大丈夫大丈夫! ということだ。
「次はおいらだな。防御陣形を組んだうえで後退しながら敵を待つ。その間に、早馬を出して泉州県から援軍を呼ぶんだ。敵と交戦しながら援軍が来るまで耐え抜くってわけだ」
閻柔は第二の策を挙げるが、
「援軍が来る前に私達が壊滅する可能性があるでしょう。それに援軍だってすぐに来るとは限らないので、泉州県に戻るのが一番いいと思います。最悪の場合を考えましょう」
斉周は真っ向から反対する。
すると、閻柔は後頭部を掻きながら私の方を向く。
「まっ、決めるのは
「ちなみに聞きますけど、閻柔は真正面から戦って耐え抜く自信はあるんですか?」
私は気になる部分を尋ねる。
「今のところ思いつかないから……そこは田豫の策でなんとかな」
「一番大事な部分を投げてつけてくるな」
呆れ気味に言った。
「へへへ……でも戦いの最中で状況を見極めて手を打つのは得意だろ」
閻柔はバツの悪そうな顔をする。
「とにかく、時間が無いので方針を言います」
私以外の三人は神妙な顔をする。
「――――前進し、真っ向から敵を迎え討ちます」
「「「っ⁉」」」
三人は息を呑んでいた。
全く予想はしていなかったのだろう。だからこそ、相手も予想できないはずだ。
次いで斉周は絶句したままで、閻柔は「おお……凄いこというな」と言った。
「変なことを言い出すとは思ってたよ」
夏舎は右手で額を押さえながらも理解を示してくれた。
「奇策を打つということだね」
私は夏舎の言葉に頷く。
斉周は冷や汗を掻きながらも口を開く。
「援軍には頼らないと?」
「前進した上で援軍要請の早馬を一体出しますが、私達のみで相手を撃破する方向で戦います。さきほど斉周殿が言った言葉を借りますが、最悪の場合を考えるからこそ戦うのです。戻っても、劉備も泉州の軍もいない可能性だってあります。今や黄巾賊がいつどこで襲ってくるか分からない状況ですよ、すでに戦いに出向いているのかもしれません」
「…………」
私の言葉で斉周は少し黙り込んだあと、険しい表情で確認するように言う。
「相手は一万の軍勢で三倍以上いるのですよ」
「承知の上です」
「この辺の地域は基本的には平野です。故に兵数が勝敗を分けると言っても過言ではありません」
「確かにそうかもしれません」
何を言っても私が意見を変えないとみると、少し諦観した表情を見せる斉周だが、
「最後にいいでしょうか」
「ええ」
「『
斉周は熱のこもった言葉で私の真意を確かめようとしてきた。
「多勢に劣勢では餌食にされるのは当然ですし、その文言はそのことを警告してくれているものです。ただ、『孫子』の
「…………ああ‼」
「うわ、びっくりした」
斉周が静かになったかと思えば突然、大きな声を出したので驚いてしまった。私の意図が分かったのかもしれない。
「しかし、上手くいくのでしょうか」
なお、心配そうだった。
「兵法書というのは言葉通りに受け取ってはいけません、何故なら著者が記すまでもないと思った事柄も含めて熟考するのです。兵数というのは確かに重要ですが、兵数以外にも勝敗を覆す要素が幾つもあります、今回はそれを実践しましょう。私含めて皆には無理をしてもらいますが……いいでしょうか?」
「仰せのままに」
色々言っていたが、斉周は従ってくれるみたいだ。
「当たり前だ!」
「普段は後方支援をしていますができることがあるなら言ってくださいよ」
閻柔、夏舎も快く従ってくれる姿勢を見せる。
さて、奇策を……打つか。
ああは言ったものの策が上手く行くとは限らない。だが、そんなことは皆、承知の上なのだろう。
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