第一四四話 部下として迎え入れたいが難しそうだ
しかし、天運が味方をしてくれた。持っていた斧が手からすっぽ抜け、たまたま徐晃の得物ごと吹っ飛んでくれたおかげで彼を追い詰めることができた。
しばらくすると、
馬に乗って劉備と共に盧植のところへ向かう最中。
「うーん……これ大丈夫かな」
私は愛刀『
徐晃が無茶をして刀を使っていたので刃が消耗していた。盧植に頼めば従軍している鍛冶職人に刀を打ち直してもらえるだろうか。
「
私は刀を鞘に収めたあと、体全体を擦る。
徐晃との戦いで例にも漏れず、全身筋肉痛となってしまっている。
だが、筋肉の出力を上げたことによる筋肉の痛みは戦う度に和らいでいる気がする。肉体が成長しつつある。いずれ徐晃のような一騎当千の猛者と渡り合えるような日がくればいいが。
――――盧植が滞在している幕舎の外にて。
私、劉備、
もちろん捕縛した二人というのは徐晃と楊奉のことだ。二人は上半身を麻縄で縛られて両膝をついている状態だ。今から彼らの処遇を決める。
「この縄を解け!」
楊奉は元気だった。彼の顔を覗き込む張飛は口を開く。
「解くわけないだろ!」
「老けたガキだな! 黙れ!」
「んだと⁉」
「いや待て待て待て」
張飛は楊奉に殴りかかろうとしたので劉備は間に入って仲介する。
楊奉の横にいる徐晃は目を閉じて大人しくしていた。潔い彼はまさに武人という言葉が似合う。
劉備と張飛が騒いでいる間、盧植は私に話しかける。
「
「ええ、さっきも言った通り、張飛や
私の見立てでは機転が利く分、二人以上に強いかもしれない。だが、この場には張飛もいるので彼の自尊心を傷つけないような言葉選びをした。正直、張飛に徐晃の方が強いかもしれないということを聞かれても問題はないが、関羽の耳に伝わると後で文句を言われるかもしれない。
「それが事実だとすれば一介の賊にしておくのは惜しいのう」
盧植は徐晃を勧誘する気だ。正直、私の仲間に加えたいが盧植の手前、そんなことはできない。
「どうだ、黄巾の乱の間はわしの軍に加わらないかの」
盧植が声をかけると徐晃は目を開く。
「さっきまで賊徒であった私を誘ってくれて有難い。だが、ついさっきまで協力関係にあった
徐晃は堂々とした態度だった。
ここで私は徐晃に話しかける。
「君のように義理堅く、潔い武人がなぜ賊になっていたのかが分かりません」
「それは貴殿の思い込みだ。私は主に従い、私情を捨て武の求道者と生きているだけだ」
徐晃の信念はそうかもしれないが、義理堅いことには変わりないだろうに。彼は少し頑固なのかもしれない。
気付くと劉備と張飛は大人しく私達のやり取りを見守っていた。
「徐晃と俺はな元々、役人だったんだよ」
楊奉が口を挟んできた。
「数か月前に黄巾の乱が勃発したとき、民衆に反乱を起こされてな。そこで俺は賊に落ちて、元々部下だった徐晃も付いてきたわけだ」
彼は賊になった経緯を説明してくれた。私は「なるほど」と呟いた。
劉備は盧植に近づき、
「
提案をした。
「それもよかろう。どうだ徐晃とやら、戦う決心が付くまで後方支援してもらうという形で軍に下らぬか?」
「分かった……」
一応、徐晃は盧植に従う形となったのかな?
徐晃のことだから盧植の下にいる間、いずれ恩を返すために戦場で戦ってくれるだろう。
「じゃあ俺はどうすんだ‼」
楊奉はいきなり怒鳴る。すると、彼に対してまた張飛が反応する。
「こいつは処刑でいいと思うぜ」
「ふざけるな!」
盧植はかしましい二人のやり取りを気にせずに思案顔を浮かべていた。
「楊奉とやらも役人であったのだろう。どうだ部下と共にわしと従軍するのは? 元の鞘に収まるのは願ったり叶ったりではないかのう」
「…………」
盧植の言葉に口を噤む楊奉。
彼は人の下に付かない矜持でもあるのだろうか。
「従うぜ」
「従うんかい」
私は楊奉の一言に思わず突っ込みを入れてしまった。
後日、楊奉は官軍に見張られながら部下を率いて盧植の下に馳せ参じた。こうして
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