第一一四話 精強になってくる敵

 黄巾賊の騎兵に対して趙雲ちょううんの部隊が正面からぶつかろうとする。ちなみに趙雲曰く、約四〇〇人の歩兵を連れて来たらしい。


 一方、私達、騎兵部隊は黄巾賊の側面から攻撃しようとしたが、


「さすがに脅威を感じましたか」


 二方面から攻撃されることに勘付いた黄巾賊の騎兵は早い段階で後退し、後方にいる歩兵部隊と合流していた。


 だがやることは変わらない。


「このまま敵の側面に攻撃を仕掛けます!」


 後方にいる仲間達に方針は変わらないことを伝え、私達は敵に迫る。


 開けた平原だからか趙雲と黄巾賊が正面衝突する瞬間がよく見えた。


 騎乗している趙雲は背中の槍を両手に持ち八の字を描くように左右に振り、両側にいる黄巾賊を蹴散らしながら突き進んでいく。他の義勇兵は趙雲が開けた道に雪崩れ込み、剣戟を広げた。


「おお……」


 私は感嘆する。


 趙雲は前方にいる敵に槍を投げつけたかと思えば、馬から飛び出し槍の柄を掴む。次いで彼は空中で体を一回転させて、槍を敵ごと地面に叩きつけていた。他の黄巾賊は思わず尻餅をつく。


 前世でやったことあるゲームと同じような動きをしやがった。関羽かんう張飛ちょうひと同じく趙雲もまた人間の域を超えた実力者だと再認識した。


 その後、趙雲は槍を叩きつけた反動を生かして独りでに走ってきた馬に乗り直していた。敵は趙雲の大胆不敵な戦い方に恐怖し近づけない様子だ。


「前方の敵! 射程距離に入ってます!」


 近くにいる兵からの報告で視線を趙雲から前方にいる黄巾賊に目を向ける。側面から近づいて来る私達に対処するために敵が飛び出してきているようだ。


呼銀こぎん行きましょうか」


「おうよ!」


 私と呼銀は南匈奴みなみきょうど族達を連れて前へと出て、弓矢を構える。


 呼銀は大きく息を吸い攻撃を指示する。


「放ちやがれえ!」


 私は南匈奴族と共に矢を連射し続けた。


 矢が少なくなってきたこともあり一本一本素早く丁寧に矢を放った。


 水平に飛ぶ矢は突進してくる黄巾賊の体を射抜く。


「ぐ……くそっ!」


「っ! 小癪なっ!」


 死に至らないものの矢が四肢の一部に当たり行動不能に陥った黄巾賊もいるようだ。


「もうない……」


 私は尻すぼみに喋る。


 矢筒に手を突っ込むと、矢がもう五本しかないことに気付く。他の人達も同様だろう。


「前方から騎兵が突っ込んできます!」


 誰かが言ったその言葉で私は残った矢を放ち数人の敵を射る。そのあと、矢筒を捨て、弓矢を背中に背負ってから愛刀を抜刀する。


 矢を潜り抜けた黄巾賊の騎兵が猛進してくる。


「こちらも突っ込みます!」


「「「ウオオオオオオオオオオオオオオ!」」」


 私の合図で南匈奴族達が雄叫びを上げて突撃する。


 私もいくか。


 馬を走らせて馬上での剣戟が繰り広げられる戦場へと乱入した。


「若造があ!」


「くっ!」


 私は右側から迫ってきた中年男性の直剣による一振りを横に受け流すと、


「まだまだ!」


 男は馬に乗ったまま通り過ぎ、背中に直剣を叩きつけようとする。


「なっ⁉」


 男の驚いた声がした。何故なら、私は背後を振り返らず、両手に持った刀を右肩から下ろして背中に構え、相手の攻撃を受け止めたからだ。私は逸脱した空間把握能力によって相手の行動を把握していた。


「せいっ!」


 相手が驚いている隙に刀を振り上げて武器を弾きつつ、愛馬の手綱を引いて相手の正面へと向かう。


 男は武器を弾かれたことで不安定な体勢になっていたが私が通り過ぎざまに横薙ぎを食らわそうとすると、すでに武器を横に構えて防御に徹していた。


「っ!?」


 男は瞠目する。私は振るった剣を相手の武器に当てる直前で引っ込めながら、馬から飛び出したからだ。さっき趙雲が馬から飛び出して攻撃したのを参考にしたわけだ。


「はああああ!」


 気合を吐きながら、構えた剣の下を掻い潜らせた刀を心臓部分に突き刺しながら、


「がっ、は……」


 吐血した男と共に地面へと落ちる。


「ふぅ……」


 一息吐いたあと私はすぐに愛馬に戻った。


 手強い相手だった。有象無象の賊の強さじゃない。


 乗馬している時点で察していたがやはり騎兵に乗っている連中は、元は名家の私兵だったり、官軍だったりするのかもしれない。そうじゃなくても訓練された人間の強さには変わりない。


 周囲を見渡すと黄巾賊の死体だけではなく仲間の死体が転がっていた。


「くっ」


 私は歯を食いしばる。幾度となく見た光景だが、嫌な気分にはなる。


 だが戦況は優勢だ。南匈奴族の力強い猛攻のおかげもあるが、今まで体力を温存していた閻柔えんじゅうの部隊が存分に力を発揮して暴れ始めていたからだ。


「行きましょう『白来はくらい』」


 私は乗馬している馬の名を呼び、再び敵に向かっていた。

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