第一一五話 実力のある厨二病はカッコイイ

 黄巾賊の騎兵も腕は立つが、見る見るうちに数を減らしていく。


 つまり兵士としての練度は私達の方が上手だったのだが、


「他愛もない!」


「ぐあっ!」


 敵の中で白銀に輝く鎧を着ている騎兵がおり、仲間達を幅広の大剣で斬り払っていた。


 あの者が着ているのは明光鎧めいこうよろいの前身となるものかもしれない。明光鎧というのは胸部と背中を楕円上の鉄板で覆った鎧で、腹部から腰にかけて金属片を繋ぎ合わせたもので覆うことで柔軟性を持たせているものだ。ただ、あの騎兵が着ているのは本来の明光鎧と違い、上腕と脚部が守られてなかった。


 とにかく他の黄巾賊が着ている防具と比べて上等なものを着ているわけだ。おそらく、持っている大剣も質のいいものだ。


 いつの間にか白銀の騎兵は南匈奴族の男と戦っており、


「ぬおっ!?」


「ふん! 大したことないな!」


 四合打ち合ったあと、南匈奴族の男を馬から落としていた。


 確実に他の黄巾賊と比べて頭一つ抜けた実力者だ。犠牲が増える前に私の方に向かってくる状況を作るか。


「私は『黄巾殺し』の田豫でんよ! 白銀の男よ! 私と一騎打ちせよ!」


 名乗り上げると愛馬が前足を上げてヒヒーンと鳴く。『白来』のやつ盛り上げ方を分かってるな。


「なに!?」


 白銀の騎兵は声を上げて私の方を見やった。


「俺の名は白爵はくしゃく! 太平道たいへいどう小方しょうほう(太平道の役職名)なり!」


 強いと思ったら小方だったのか。


 白爵は馬を走らせて来る。彼はリミッターを解除して本気を出すべき相手だ。


「……っ」


 私は軽く顔をゆがめながら相手を見据える。筋力の出力を上げようとすると地味に筋繊維が傷む。右北平ゆうほくへいの戦いで筋力の出力を三倍に上げたことによるダメージが完全に治ってないようだ。


 無理やり本気を出そうとした、その瞬間、


「待たれよ!」


 突如、辺り一帯に大きな声が響き渡る。白爵の声じゃない。


 この声は趙雲だ。


「俺、見参!」


「ぐぇ!?」


 あろうことか趙雲は私に突進してきた白爵に跳び蹴りをかまし、彼を吹っ飛ばしていた。


 白爵はゴロゴロと転がっていく。


趙雲ちょううん殿! なぜここに」


「田豫殿言っただろ。俺は防護壁になると」


「仲間の姿は見えませんが」


 趙雲は一人で来ていた。


「前線に置いてきた。小方がここにいると聞いたのでな……叩けるならより強者を叩くのみだ。俺の槍もそう言っている」


 趙雲は槍を半身で構え、立ち上がった白爵に矛先を向ける。


 言ってることは相変わらず厨二的だ。しかし、厨二病も実力が伴えば、箔が付くというものだ。


 私は趙雲の肩に手を置く。


「なら、その槍の声に応えてあげてください」


 私も厨二病になってみた。


「ふっ、無論だ」


 彼は鼻で笑った。満足そうだ。


「な、なに訳の分からないことを言ってやがる! 死ねい!」


 白爵は困惑気味に大剣を横に構えて走っている。


 趙雲は真っ向から大剣の横薙ぎに対して打ち合うと、


 ――――バキッ


 互いに武器が振り抜かれた瞬間に嫌な音が鳴る。趙雲の槍の柄が真っ二つに折れてしまった。槍の上半分は宙にくるくると舞う。


 いくら趙雲の腕が立つといえ白爵の装備が優れている。対して趙雲は質素な槍だ。


「ふはは! 馬鹿め!」


 白爵は哄笑しながら大剣を切り返すが、


「はっ!」


 趙雲は掛け声と共に跳躍し、相手の攻撃を避けた。


 さらに跳躍しながら宙に舞っている槍の上半分を掴んで着地。


「これが二刀流槍術だ……」


 趙雲は右手に槍の下半分、左手に上半分を持ってなんか言い出した。


「そんなのあるわけねぇだろ!」


 白爵は怒鳴りながら振り上げた大剣を振ろ下ろす。一方、趙雲は身を翻して攻撃を避けると、


「ふっ!」


 息を吐きながら、白爵の頭上を飛び越すように宙返りをする。


 それを見上げる白爵を大きく口を開けていて、


「ふぐっ!?」


 趙雲は白爵の口に下半分になった槍を突っ込んで、彼の後ろに着地した。


「うぇ! こんなもん突っ込みやが、ぐうぇ!?」


 白爵は槍を吐きだしながら後方にいる趙雲に大剣を振るおうとするが、彼の首には趙雲が持っていた上半分の槍が突き刺さっていた。


 実力を発揮することなく白爵は地面に倒れ込み、首から血を流す。致命傷だ。


 強い! 私も相手の意表を突く戦い方はするが、趙雲は私以上に自由な戦い方をしている。白爵が全く対応できていなかった。


 私と同じように趙雲と白爵の戦いを傍観している黄巾賊もおり、彼らは狼狽えていた。


「は、白爵様がやられた!」


「う、うわああああ!」


 周囲にいる黄巾賊は一目散に逃げていく。


「趙雲殿! 下がってください、手ぶらでは危険です!」


 私は愛馬を走らせ、趙雲の横を通って逃げる敵を追った。


 次第に小方が亡くなった情報は戦場に伝播し、黄巾賊は浮足立っていた。川を越えてきた、この軍は白爵が率いていたのだろう。


 私達は敵を散々に討ち破り、第二戦を制したのであった。

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