第三二話 着々と進む準備
翌朝。大広間に呼ばれると、
「初めまして」
「え、あ、初めまして」
私は隣に居る人に声を掛けられて戸惑う。その人は見栄えのある顔をした大人の女性で、お
「私は
「おはよぉ、田豫君」
女性の人が自己紹介をすると、彼女の横にいる玲華が顔を出して朝の挨拶をしてくれる。この子というのはどうやら玲華の事らしい。
「おはようございます。玲華の母親でしたか、少しの間、お世話になります。公夫人、宜しくお願い致します」
「ええ、娘とも今後よろしくね」
一児の母親とは思えない若々しさで、少し
「ふむ……香ばしい匂いだ」
「味が想像出来ませんな」
「いやはや、どんなものか」
高家の人々は皿の上に載っている
胡餅の見た目は私が言い伝えた通りになっていた。
平らで丸いナンのようなパン。香ばしい麦と植物油の匂いが食欲を
私は
「……!」
久々のパン――私の心は踊り始めた。
中身はあっさりしているが、外側はパリパリと気持ちのいい食感! 前世の私が良く食べていたパンとは趣が違うが
ハンバーガー、メロンパンやチョココロネといった菓子パン、ピザトーストなどなど……転生する前に食べたことがあるパン類を思い出し、当たり前に色んなものを食べることが出来た時代の幸せをかみしめる。
「おお! 淡泊だが美味しい!」
「いやはや、確かに肉を挟んだりするのもいいかもしれんな」
「新鮮な食感だ。まるで遭難している中、美女に出会ってしまった感じだ」
周りの人々の評判は上々だ。良く分からない例え話をする人もいたが。
「田豫よ。気にいってもらえたようだな」
私はいつの間にか目を
というか目の前に当主が居たことに今の今まで気付かなかった。起きたばかりで
「ええ、とても美味しいです」
私は当たり障りのないことを言う。確かに美味しいが、食文化に恵まれている前世を思い返して哀愁に浸っていた。
「うむ。では皆の者! 高家の命運を賭けた食べ物ということを肝に命じて、市場にて胡餅を生産出来る店舗の準備をせよ! また、様々な食材と組み合わせて試作を重ねるがよい」
「「「「はいっ‼」」」
高輔は発破をかけると
それは単に主食が
これは確実に儲けた、褒美を貰うこと間違いなし、そして高家に対する罪悪感も
「ふっ」
と鼻で笑った後、
「高当主、少し提案があります」
私は挙手をし、高輔に許可を貰うと立ち上がる。
「店舗販売を開始すると同時に試食できる場を設けてはどうでしょうか」
「試食……?」
私の言葉に高輔は疑問符を浮かべる。試食販売という文化はないのだろうか? とりあえず説明するとしよう。
「まず、食品を一口サイズにして、それをお店から離れた場所で食べてもらうんです。そうすれば美味しさを知ったお客さんが店舗に足を運んでくれるでしょう」
「ふむ……なるほど」
当主は腕を組み思案顔を浮かべ――、
「では幾つか、その場を設けよう!」
直ぐに私の考えを採用してくれた。信頼し過ぎて怖い。
――店舗の準備は二日で完了した。主に外食市場にあった店内の調理設備を変更しただけで大して時間はかからなかったみたいだ。しかも、市場に構えれた店舗は一つだけではなく、
店舗によって
ちなみに私は二日間、高家にある書物を読み
しかし、高家が事業を再開しようとしている今は鍛錬に励んでいる場合ではない。私は形だけでも手伝おうと思い、外食市場から少し離れた場所で試食販売をしようとしていた。
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