第六八話 急かしすぎはよくないけど、急かしたかいがあった
故郷を離れている間、歴史に名前を残した人物と出会い、幾人かと交流を重ねてきた。その中の一人が、今、目の前にいきなり現れた張飛だ。
名前から分かる通り、彼の姓は張、名は飛、
「なにしてんだ?」
頭を左手でポリポリと掻く張飛。ちなみに右手には矛を持っていた。
彼の容貌は額を晒した長髪にドングリ眼で、腕が常人の首並みに太く、身長は六尺(一八〇センチ)以上ある。記録と違ってなぜか
「私の台詞ですよ、なんですか今の『おらおらおら! 俺様、登場!』って」
私は彼の真似をしてやった。
「
「もちろん」
張飛は部下に対してはとんでもないパワハラ野郎だが同格以上の人物とは仲が良く、意外にも知識人を心から尊敬している。そのせいか、武芸大会を通して仲良くなったので臆することなく接することができるようになった。
「チッチッチ」
張飛は指を立てて、舌を鳴らす。
「今、賊に攻められてんだろ? 大声を出して敵を脅かしてやろうと思ったんだ。その隙にこれでグサリよ」
「危なっ!
「悪い悪い」
持っている矛を私の眼前に突きだした張飛は悪びれる様子もなかった。
「田豫! 誰だよ! このゴツイやつは!」
妙にテンションが高い
「私の友達で、張飛という名前です」
「お前さんは誰だ?」
閻柔の疑問を解決してやると、今度は張飛が疑問を挙げる。
「閻柔って言うんだ。おいらも田豫の友達さ」
「おおそうかあ! 歳はいくつだ?」
「一六だ」
「俺も俺も!」
張飛は閻柔が同い年だと分かると、親指を自分に向けて激しく自己主張する。
次いで、二人は互いに両手の人差し指をお互いに向け、
「「タメじゃ~ん!」」
お互いに抑揚のついた声を出していた
なんじゃそりゃ。
これが今のティーンエイジャーの流行りか。いつの時代も若者の流行の移り変わりは早い。去年は右肘と左肘を順にぶつけ合いながら小気味良く「また! 明日!」とか言う、別れの挨拶が流行ってた。
「そんなんいいですから、張飛がなぜここにいるか教えてください」
「おおそうだ。俺達は田ちゃんを探しに、わざわざ
「劉兄って
「おう! あっ! そっか知らねえんだな。実はな」
張飛はハッとして何かを言うとするが、
「言わなくても分かりますよ。
内心、自信がなかったので言い淀んでしまった。
「おおおお! すげ!」
感嘆の声を上げる張飛。
これに関しては、ただの杞憂。
「でも挙兵自体はもういつでもできるというか、できてんだよな」
「⁉」
私は張飛の言葉を聞いて
東門からに離れた場所に陣を取っている軍勢がいた。東門から道に沿うように配置されてある
「あそこにいる連中が俺様達の軍だ。今、官軍と話をつけるために使者を遣わせてる最中だ」
背後にいる張飛が軍勢について説明してくれた。あの軍勢の中に劉備がいるに違いない。まさか、あそこまで準備ができていたとは……挙兵や黄巾賊について話しといて良かった。それとなく、兵法書を早い段階で勧めたことも功を成したのかもしれない。
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