第五話 程全を助けよう
日没後。賊達は
「あの、少しもよおしてきたので場を離れていいですか?」
と近くに居る賊に言った。
「お! 参謀殿! どうぞどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」
偉い腰が低い賊だ。にしても参謀と呼ばれる日が来るとは……気分が良い! 鼻歌でも歌いたい気分だ……っといかんいかん、大事な事を忘れるところだった。
「あ、あの」
「どうしたんですか!」
先程の賊は勢いよく返事してくれた。
「何分、得物を持っていないので少々、単独行動は不安でして護身用に何か貸してもらえば助かります」
「どうぞどうぞ! これを持っていてください」
賊から
というか、この男、唯一持っている武器を渡してきたぞ⁉
「私が持つと得物がなくなるのでは?」
「いいって事よ! そろそろ火矢の準備するしな!」
「敵が近づいてきたらどうするんですか」
「参謀殿が生きてたら、それでいいんだよ! 気にするな!」
いい人! 滅茶苦茶いい人! 何故、賊なんかをやっているのか質問したかったが私は寺院が燃やされる前にいち早く程全を救わなければならないので一礼して場を去った。
寺院の中どころか境内はもぬけの殻だった。私の様な子供の言う事に従っているあたり、よっぽど雍奴県を領地にしたいのだろう。
この時代の中国は
何故、政治が牛耳られる様になったかというと幼少の皇帝が即位する時代が続いて皇帝の外戚と宦官が政治を執る事になったからである。幼い皇帝が多く擁立され宮廷は勢力争いに明け暮れた。その結果、政治を省みなくなったのである。
私は寺院の中に入ると、
「うわああああああん」
大きな泣き声が聞こえた。恐らく、程全が泣いてるのだろう。無理もない、少し傲慢な所があるけど、程全もまだ子供だ。
寺院の奥に進むと柱に縛り付けられている程全が居た。私を見た瞬間、「うあああ、来るなぁぁぁぁ! うわあああああ」と泣き叫んだ。私に殺されるとでも思っているのだろうか、化け物扱いされている気分だ。
「程全、今お助けします」
「嫌だぁぁぁぁ、死にたくなよおおおおん」
話聞けよ。
「落ち着いて下さい」
「その剣で俺を刺すんだろうわあああん」
論より証拠だ。程全を縛り付けている縄を切ろう。
「よいしょっと」
「え?」
不慣れな手付きで短剣で縄を切り始めたので程全はきょとんとした顔で私を見ていた。にしても剣術も覚えなければいけないな……私が思うに、この
私は今後の事について考えているうちに程全に
「え、なんで……」
程全は戸惑っていたので私は直ぐに真意を告げる。
「怖い思いをさせて申し訳ない。私は敵に降った振りをして君を助ける機会を伺っていたのです」
「え……」
少し間が空くと、私の言った事を理解した程全の顔が明るくなった。
「そうだったのか! そうじゃねぇかなと思ってたんだよ!」
嘘付け。私の事を屑だの逆賊だの言ってたの忘れてないからな。
「なにぼっーとしてんだ。賊が来る前に抜け出すぞ! 着いてこい!」
なんで君が私を助けたみたいになってんだ。
とりあえず、程全と一緒に寺院の外へ出ようとしたが違和感を感じた。とにかく熱いのだ。
「まさか……」
私は呟いた。
私達は境内に出て、背後にある寺院を見た。なんと、勢いよく燃えているではないか! ということは県長含む県の軍が来たって事だ。でなければ賊達は火矢を放たないはずだ。
程全は見ると、彼の膝は震えていた。
「あ、危なかったですね。私が遅れてたら火の中でしたね」
「あ、ああ。そそ、そ、そうだな」
可哀想に、かなり怖い思いをしていた様だ。一体、誰がこんな事を……あ、私のせいか。
とにかく私達は境内から出ようとした。すると境内の入り口に人影が見えた。
「もう助けが来たのか!」
程全は歓喜していた。しかし、いくら何でも助けが来るにしては早過ぎる。確か、私は遠くから県長が来るのが見えたら火矢を放てと賊達に指示したはず。
「程全! 止まってください!」
「なんでだよ!」
私は今にも人影に向かって行きそうになっている程全を止めた。すると人影が前に一歩踏み出し、姿を現す。
「おい……田豫。俺達と一緒に旗揚げするんじゃねぇのか」
「あ……そんな……」
なんと境内の入り口に居たのは賊の頭領だった。
(まずい! 非常にまずい! 逃げる……どこに? 後ろに火、前には賊、こんな所で二度目の人生を終わらせるには……私はまだ栄光を手にしてない!)
私達は窮地に陥ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます