第九九話 攻勢から始まった右北平の戦い
全力疾走した義勇兵は黄巾賊が前列に展開した弓兵に到達した。ここまで死傷者はほとんどいなかった。
私達の剣の届く範囲に入った敵の弓兵はどうすることもできず、義勇兵に討ち取られていく。
「疲れているかもしれませんが手を緩めないでください! 今、攻撃を緩めれば私達は死にます! 逆に今攻め続けることができれば敵を一方的に殲滅できます!」
私は義勇兵を鼓舞しながら、敵の弓兵の
「ぐぶえはっ!」
敵は胸を押さえて
そうこうしているうちに敵の弓兵部隊は瞬く間に全滅し、私達は弓兵部隊の後方にいた全く陣形が整っていない黄巾賊へと斬りこむ。
「うわああああああ!」
「くるぞおお!」
「に、逃げるんだあ!」
敵には驚き戸惑う者、なんとか備えようとする者、逃亡しようとする者がいた。
なお、周囲にいる義勇兵は、
「ヒャッハー!」
「世の中を乱しやがって!」
「俺達が浄化してやるぜ!」
黄巾賊とは対照的に暴徒と化していた。
どっちが賊だよ、と心の中で突っ込みながら私はろくに戦う準備ができていない敵を斬り倒す。
もはや、一方的な戦いだった。
「お前は『黄巾殺し』!」
私を見た敵は槍を振り回しながら突っ込んでくるが。
「ぐうぇ⁉」
振り回した槍が他の黄巾賊に当たっていた。
「あ、すまん!」
「…………」
槍が当たった黄巾賊は倒れたまま返事をしなかった。
「…………おのれ『黄巾殺し』! よくも仲間を!」
あろうことか仲間が死んだのを私のせいにしていた。
「茶番に付き合ってる暇はありません」
「ぐぅぇ⁉」
足元に倒れている賊の剣を手に取り、上手投げで相手の首へと突き刺した。
首を振って周囲を確認すると、人数を固めた両翼の部隊が黄巾賊を挟むように押し込んでいた。
これこそが両翼に兵を集中させた理由だ。一万近くの黄巾賊は望まぬ形で密集したうえに士気もなく自由に戦えない様子が見て取れる。
その証拠に、今、目の前に剣を持っている敵兵が二人いるのだが。
「そこをどけい!」「おりゃ!」
二人は同時に剣を振るうと、お互いの武器がカキ―ン、という金属音を立てて、かち合った。
「「あっ」」
気まずそうな顔をする敵兵二人。
するとその後方の横手から全力疾走している
「砕け散れ!」
両手に持った太刀を左側に構えたまま、敵兵二人の首を跳ね飛ばす。
「おお」
その様子に私は少し、目を見張った。
首を斬るのは少々、コツがいるうえに一気に二人の首を飛ばしていたので力と技術が合わさった技だということが分かった。
「力任せに武器を振るうだけだと思ってましたが進歩しましたね」
「正直、俺を侮っていただろ」
「うん」
「う、うん⁉」
程全は私の返事に驚き戸惑っていると、敵兵が私のいる部隊目掛けて突っ込んでくるのが見える。
やはり、こうなったか。両翼の部隊に押し潰されれば、手薄な中央部隊に無理やり突撃するとは思った。
中央部隊は敵の突撃に耐えきれず、左右に分かれさせられ分断されてしまう。黄巾賊は当然、分断したことによって出来た穴に突っ込んで包囲網を抜け、形勢逆転を図る。
しかし――
「待ってたぜ。さて、この
――待ってましたと言わんばかりに義勇兵の騎兵部隊がやってきて、中央を突破している敵を押し込む。
後方に騎兵部隊を待機させたのはこのためだ。黄巾賊にはない機動力のある騎兵がこちらにいる。兵種の多さは手数の多さ、これを生かさない手はない!
意外にも敵は粘っていたが、結局は敗走していた。敵が逃げた方向は二つ、後方に広がる平野、そして横手にある川。どちらも大将旗を掲げながら逃げていた。
当然、追撃を開始することにした。明らかに敗走している敵に伏兵がいれば、肝が冷えるどころの話ではないが、ここで黄巾賊の頭目を逃せば、また賊が集ってしまう。ここでその連鎖を断ち切る!
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