第二四話 イツメンで剣術が一番巧みなのは誰だ! 田疇対程全

 半年後。私こと、田豫でんよ御馴染おなじみのホームタウン――雍奴ようど県にいる。ただ今日は、家で書物を読んだり鍛錬をしているわけではない。雍奴県にも県城けんじょうが出来た為、様子を見に町に出たのだ。


 県城というのは、県の役所を防衛する為に築かれた城である。ただ、日本の様に石垣の上に天守閣を備えた城ではない。県の役所と町を城壁で囲んだ城郭じょうかく都市だ。先日、訪れた、杏家の屋敷がある町も県城である。


 そして、雍奴県の県城という事は、県尉けんいである顔仁がんじん県長けんちょうである程全ていぜんの父親の職場でもあり、住んでいる場所でもある。つまり、これから顔仁や程全に会いに行くときは城郭を越えなければならないのだ。


 何故なら、私の家を含む近隣一帯は残念ながらギリギリ城郭の外にあるからだ。区画整理の結果なのは分かってはいるが、幼いながらも地元じゃ名を馳せている田豫でんよがいるんだぞ! 私がどうなってもいいのか! と心の中で叫んでみた。


何処どこ見てんだ~?」


 街を見下ろしている私に声を掛ける閻柔えんじゅう


「いい眺めだなと思ったんですよ」


「確かに!」


 私は今、馬面ばめんから街を眺めていた。馬面と言うのは、城壁の四隅又は一定間隔ごとにある突出部である。ここは兵士が敵を側面から攻撃する為の場所である。決して私や閻柔のような子供が来ていい場所ではない。おまけに背後では今から木剣で一騎打ちをしようとしている程全と田疇でんちゅうがいる。


 いつもの面子めんつで誰が一番、剣術が巧みなのかという議論になったので早速、戦う事になった次第だ。


 閻柔は後ろを振り向いて、対峙している二人を見る。


「始まるみたいだな。おいらは田疇に賭ける」


「右に同じく」


 私も一騎討ちの様子を見ようと振り向いて、閻柔の言葉に同意した。年齢以前に技術的に田疇の方が強いからだ。というか以前、程全は田疇に手も足も出ず、やられてたはず。


「なんだと! 今日の俺は一味も二味も違うからな!」


 いきどおる程全。すると田疇が


「なら剣で語るべきなのでは?」


 とお洒落な言い方をしてきた。果たして、彼らの力関係は一年で変わったのだろうか?


「行くぞ!」


程全は右手に持った剣を前に構えて相手に突進! 相変わらず猪突猛進だが、前に構えている辺り防御も意識している。彼は左から右へと木剣を振ると同時に両手で武器を持つ。動きが明らかに去年と違う! 成長している!


「ぐっ!」


 対して田疇は相手の横薙ぎを両手で持った木剣で受け止めた。そして、攻撃を横に受け流しながら体一つ分移動する。彼は木剣が振るわれた方向とは逆の方に移動していた。


 彼らは互いに距離を空けて再び対峙した。


「おお……」


 私が感嘆の声を上げると、閻柔も驚いていた。


「程全の奴、訓練してやがったな!」


「きっと以前、田疇に負けたのが悔しくて、父親の権力を使ったんでしょう。それで剣術を誰かに師事してもらったに違いありません。……なんて奴だ」


「そうだったのか⁉」


「いえ、今のは全部、適当に言いました」


「……おいら、たまに田豫が分からなくなるな」


 と話しているうちに対峙している二人はお互いに向かって突進していた!


「くらえ!」


 顔の前に構えた木剣を振り下ろす程全!


「させるか!」


 半身で下から上へと木剣を振り上げる田疇! 木剣同士が衝突し、


「「………っ!」」


 しばらく押し合った結果、お互いの武器は何処どこにも当たらないまま宙に振り抜かれる。しばらく鍔迫つばぜり合いをした為、あらぬ所に力が掛かっておかしな方向に振り抜かれたのだろう。


「今度は自分から!」


 田疇は直ぐに武器を上に構えて振り下ろし、程全は相手の攻撃を左に払うという力技で武器を当てる!


 再び、鍔迫つばぜり合いをすると思ったが、


「なっ!」


 驚く程全。


 田疇は相手の木剣に沿って、自身の木剣を滑らす! 彼の木剣は程全の体正面に向かった。


 程全の負け! そう思ったが彼に当たるはずの木剣は床に落ちてた。


「自分の負けだ」


 田疇は程全の力技に耐えきれず、手から武器が離れてしまったのだ。


「やった……やったぞおおおお! 見たか!」


 程全は両手を広げて叫んでいた。


「どうだ、田豫! 閻――」


 彼は閻柔の名を言いきる前に口をつぐんだ。何故なら、私達は程全に対して拍手を送っているからだ。純粋に程全を褒め称えていたのだ。


「おいおい、へっへ、よせよ」


 程全は鼻をこすって照れていた。


「よし、次はおいら達の番だな」


「そうみたいですね」


 次は私が閻柔と戦う番だ。正直、彼の運動能力には目を見張るものがある。そもそも、単独で熊を倒せる実力の持ち主だ。気が……気が進まないがやるしかない。私は緊張した面持ちで彼と対峙した。

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