第一一九話 『仁侠烈士』の劉備、飛翔す
「劉備殿いますか?」
「おお、いるぞ!」
返事が返ってきた。すると背後を通り過ぎる周琳が、
「隣にいたのかよ……」
と、小さい声で呟きながら去っていった。彼は劉備がどこかにいるか分からず私に竹簡を届けにきたから無理もない。
私は入りますと告げてから戸を開ける。
「何用か」
劉備は先程までの私と同じように床に座って兵法書を読んでいた。
「官軍から劉備殿宛てに竹簡が届いたのです」
私が要件を言うと、劉備は右手をかざす。投げて渡せと暗に示していた。
竹簡を投げ渡しながら、彼の前で
「……これは!?」
竹簡を広げた劉備は目を丸くしていた。そして、内容を問う前に劉備は私に見えるように竹簡を床に置いた。
書いてある文字に目を通す。
「これは!?」
同じことを言ってしまった。
『拝啓、桜もいつしか盛りを過ぎましたが、お健やかにお過ごしのこととお喜び申し上げます。
竹簡の冒頭には丁寧な挨拶の定型文が書いてあった。重要なのは後半の文だ。
『此度の活躍によって
これは
佐軍司馬というのは将軍である盧植の属官であり、一部隊を率いる者だ。
「おお……」
私が感嘆しながら立ち上がると、劉備も私に釣られて立ち上がった。
「「おお!」」
とりあえず私達はテンションが上がった。
非常に喜ばしい出来事だ。
「少なくともこの反乱を鎮圧するまでの間は官軍として行動ができるってことですよ」
「しかし余が佐軍司馬に推挙されるなら、そなたも推挙されはずであろう」
「うーんやはり年齢が若いせいでしょうか、最近は別々で行動はしていますが劉備殿の傘下の部隊だからという理由もあるのでしょう」
23歳の劉備と14歳の私に同等の地位を与えるのは不自然だし。
欲を言えばなりたかったけどな! 佐軍司馬に!
当然、正式な官軍として鎮圧に参加出来たら褒賞が良いものになる。その証拠に盧植と同じ
そして、黄巾の乱が終わったさい、孫堅の家柄は決して良い家柄ではないにも関わらず太守に任じられた。佐軍司馬として行動しなかったらこの報酬は得られなかっただろう。
劉備が口を開く。
「では早速、皆の者にこのことを伝えにいこうではないか!」
「ええ!」
元気よく返事をした。
私は声が上擦っていた。
これは劉備からすれば大きな一歩だ。そして、そのおこぼれに
決意を胸に私は劉備と共に義勇軍の中心人物達を宿舎の外に集めた。人が多いのでさすがに部屋の中に集まれなかった。
劉備陣営側は
劉備が佐軍司馬に任じられたことを知ると皆湧いていた。
「ん?」
皆が喜びの感情を露わにしているなか関羽がこっちに来た。
「
「いやあ、あれは巡り合わせが良かっただけです。関羽殿ならば私のように苦戦することなく容易に討ち取れる相手ですよ」
「ふっふっ! そうであろう!」
関羽はほくそ笑んで、どこかに行った。
何が言いたかったんだあの人。
「趙雲よ、小方を一人討ち取った話は聞いたぞ、拙者も負けてられん」
今度は趙雲に似たような話をしていた。趙雲は私を一瞥したあと関羽に応じる。
「ふっ、あれは運命に導かれた戦いです。関羽殿の刃ならば刹那の瞬間に敵を塵に還すことができます」
私の言葉を厨二病に変換しやがった。
「ふっふっ! そうであろう!」
関羽は嬉しそうにしていた。
ああ……褒められたかったというより、小方を討ち取った私達に対抗心を燃やしてたのかもしれない。関羽ってそういうところあるから。そして、私達が関羽を認めることで鬱憤が晴れたのだろう。
「田豫、そなたにはいつも通り余の別動隊として兵を率いてもらいたいがよいな?」
「無論、そのつもりです」
私は劉備の頼みを快く引き受けた。
こうして義勇兵総勢八〇〇〇名は幽州の地から飛び出し冀州入りしたのであった。
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