第六六話 こんな形で再会したくはないのだが

 一旦、高輔こうほと解散した私は飛んでくる矢を直刀で切り払いながら城壁へと近づくと、


「ヒャッハー! 死ねえい!」


 賊が城壁の上から飛び降りて、私に向けて槍を突き刺そうとしていた。城壁は端的に言ってしまえば高い。賊がそのまま地面に着地すれば無事では済まない。


 後ろに下がって槍を避けると、


「ぐああああああっ! 足がああああああ!」


 着地した賊は右足を押さえてわめいていた。


 ここは戦闘の中心地なだけあって矢が飛んできたり、賊が城壁を越えて侵入してきたりと対処しなければならないことが多すぎるので、北門から城壁沿いに移動する。ちなみに賊は無視した。


 まさか城壁を越える手段は持っていたとは……相手からしたら攻城戦になるから当然の帰結ではあるが、雲梯うんてい――折りたたみ式のはしごを搭載した台車――のような攻城兵器は見かけなかったので少々、驚いた。ただ、今のところ、少数の賊しか進入していないので町中に入り込む前に撃退することができている。


田豫でんよ! 来てくれ! 敵が登ってくる!」


 私を呼ぶ声につられて城壁の上を見ると、話したことはないが高家で見たことがある兵士がいた。


「ここからでは上に行く手段がありません!」


「これを使え」


 高家の兵は縄を下ろしてくれたので、壁に足をかけ、縄を伝って城壁の上へと向かう。


 通路に到達した私は、敵の動きを確認する。


「なんて原始的な……」


 敵の城壁の攻略方法を見て、思ったことを吐露してしまった。


 黄巾賊こうきんぞくは二人一組ではしごを持って全力疾走し、一人がはしごを支え、もう一人が上に登っていた。あれでは登っている最中に矢を受けたり、はしごを蹴飛ばされたりしてしまう。通りで少数しか城壁を突破できないわけだ。


 ――しかし、とある、はしごから黄巾賊が雪崩なだれ込んでいた。


「うぐあっ!」


「やめろっ、ぐあ!」


「っ!」


 を持った兵士達は簡単に賊に討ち取られていた。


 私は幾人かの兵士と共に登ってきた賊のところへ駆けていく。


 弩を持たせたことが裏目に出ている……というより弩の運用方法に問題がある。何も抵抗されずに弩を持った兵が討たれているところを見るに、連射できない弩を一斉射撃したせいで討たれたのだろう。隊列を組ませて列ごとに射撃と装填の時間をずらせば、討たれることも城壁の上に登られることもなかっただろう。


 城壁の上で賊達と対峙した私は足を止め、高家の兵に先を行かせて近接戦闘をさせる。


 刃と刃がぶつかりあう通路の中、私は味方の後方で両膝をついて弓矢を構える。


 わざわざ乱戦の中に飛び込んでいく気はない、確実に生き残って勝つ方法を選ぶ!


 私は一本の矢をつがえる


穿うがて!」


 斜め上に放った矢は放物線を描いて、敵の頭部に到達する。


「おいどうした⁉」


 賊の一人は仲間が突然、矢を受けて倒れたので慌てる。その間、私はもう一度、矢を放つ。


っ!」


 二人目も難無く討ち取る。


「見事!」


 高家の兵達は感心していた。


 当然、相手にも弓矢を持っている人達がおり、私の方に放物線を描いた弓矢が飛んでくるが練度が低く掠りすらもしない。


 それから城壁に登ってきたり、登ってる最中の敵へと矢を打ち続けたが。多勢に無勢、私の前方にいた兵は全滅していた。しかも、矢はもう一〇本しかない。


「最悪だ、城壁に登らなければよかった!」


 私は全力で逃げた。黄巾賊の目的はこの県城けんじょうを落とすことなので私を追うよりかは町へと侵入していたが、


「あいつはかしらの仇じゃねぇか!」


 余計なことを覚えている賊もいたので幾人かに追いかけられたが、通路で弩を持っている兵達とすれ違うと一斉射撃で賊を次々と討ち取ってくれた。しかし、感謝するのも束の間、


「ぐああー!」


 一人生き残った賊の槍によって弩兵どへいらが薙ぎ払われ、城壁から落ちていった。残った弩兵にその槍が迫ったので、私は抜刀し、槍を弾いて兵を守る。逃げたいのは山々、この兵のために命を懸けようとは思ってないものの救えるなら救ったほうがいい、単に見捨てるのが気分が悪いだけの自己満足だ。


「ありがとうございます!」


「早く後退してください!」


「はい!」


 弩兵が逃げていくのを確認する。その間、敵の槍兵は襲ってこない、それは顔見知りだったからだ。


「君が太平道たいへいどうの信徒になるとは思いませんでしたよ」


「おいらもここに田豫がいるなんて知らなかったぞ」


 そこには質素な槍を持ち、黄色の頭巾を被った閻柔えんじゅうがいた。本来の歴史ならば、閻柔は異民族にさらわれるが、何故かその異民族に好かれて崇敬されてる頃のはず。

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