三国志マニアの無能社員~転生先はマイナー武将~

ねいん

立志編

第一話 生まれ変わった先はまさかのマイナー武将

 私は三国志マニアだという事以外、なんの取り柄もない営業職の会社員だった。そもそも三国志マニアは取り柄なのだろうか? という疑問は置いといてだ。仕事がミスばかりの私は万年平社員。年下の子が上司になっていくのなんて当たり前。皆の前で怒られるのが日常茶飯事だった。


 冷遇されているのか実力が無かったのか、この日本社会が悪いのか分からない。ただ今日からの二連休は最高だ! なぜかって? 新作の三国志ゲーム『大三国無双』の発売日だからだ! うへへ楽しみだな!


 私は会社の通勤帰り、ゲームショップに寄って心を躍らせながらパッケージに入った新作ゲームを手に取り、カウンターに向かった。


 まともに会話をしたことはないがカウンターに居るぶっきらぼうな店員とは何年も顔を合わせてた。


「あ~、いらっしゃせー。『大三国無双』税込みで九千二百円となりますー」


 高めの値段設定だが独身で三国志の書物やゲーム以外にお金を掛けてないのでお茶の子さいさいである。


 私は無言できっちり九千二百円を出した。


 「ありがとござしたー。また来てくだせー」


 私はゲームショップを出てニヤニヤしてたのだろうか、道中すれ違う女性に「きもっ」、「うわ」などと言われて軽蔑されたが、ゲームをやる楽しみで心が満たされていたのでどうでも良かった。しかし、


「へへ、遊ぼうぜ」


「離して!」


「ちょっと向こう行こうや」


「いい加減にして!」


 私が路地裏を横切ろうとすると、なんと女子高生が一人の暴漢に言い寄られて手首を掴まれた。


(ええええ! 勘弁してよ! どうしよどうしよ 警察!)


 私は取り合えず警察に電話を掛けたが、その間に女子高生は暴漢に引きずられる。


(ああ! 駄目だ、警察なんて待ってられない!)


 私は暴漢に立ち向かおうとしたが勇気が出なかった。しかし、私は大好きな三国志のしょくという国の武将達を思い起こしていた。仁の世を成そうとし蜀を建国した劉備りゅうび。その劉備の義兄弟で三国随一の武を誇り、学問を好んだ軍神である関羽かんう。劉備の没後、仁の世を成す意思を受け継ぎ大国である魏国に挑み続けた天才軍司である諸葛亮しょかつりょう。思い浮かべた人物がこの場にいるのなら立ち向かったであろうと思った。


「うおおおおおおお!」


 私は無我夢中で走った。暴漢は突然の乱入者に呆気を取られる。


「な! なんなんだ!」


「うああああ! その子から離れろ!」


「うお」


 私は暴漢に掴みかかり、押し倒すが喧嘩などした事なく、しがみついてるのが精一杯だった。暴漢は私を殴り続けた。


「ぐへっ! ぼふ! うげっ!」


 痛すぎる。で、でも私は正しい事をしたんだ! と思った矢先、


「あっ……」


 腹部に違和感を感じた。いつのまにか暴漢が隠し持っていたナイフが刺さっていたのだ。


 (ああ……ここで私は死ぬんだ)


 薄れゆく意識の中、パトカーのサイレンが聞こえると複数人の足音がした。


「そこを動くな!」


「なんだお前ら、うお!」


「こら! じっとしてろ!」


「午後六時二十七分十四秒、現行犯逮捕だ!」


 暴漢は警官達に取り押さえられてた。


 女子高生は私に近づく、よく見ると美しい顔立ちをしていた。


「大丈夫ですか! あのすぐに救急車が来ますから!」


「き……」


「余り喋らない方が――」


「君が無事で良かった……」


「!」


 私は女子高生の無事に安堵し――――意識を失い起き上がる事は無かった。これでよかったのだろうか? いや、良かったはずだ。仁の世を作るなんて大層な真似は出来ないけど、私は最後に誰かの役に立てたんだ。死後の世界に行けるなら三国志の武将達に会いたいな。


『会わせてやろう』


 気づくと私は真っ暗闇の中に居て、何処からもなく謎の声が聞こえた。ここは死後の世界なのだろうか。声の主は神様なのだろうか。


『生まれ変わるがいい』


 生まれ変わる? 言ってる事が支離滅裂だ。武将達に会わせてくれるんじゃないのか? まぁ、生まれ変わるとしたら関羽や諸葛亮が良いな。だって強いし賢いし。あれ? 中身がそのままだと意味がないような。


『また会おう。世界を頼むぞ』


 全然、話を聞いてくれないな。私の声が届いてないだけかもしれない。


――――突如、真っ暗闇の空間が眩い光に包まれる。


 そして、私は気づくと赤子として生まれていた。


 私の両親なのだろうか。男女二人が歓喜していた。父親らしき人が声を上げる。


「おお! 待望の男の子じゃ!」


「ああ、お前さん良かったね」


「お前も良く頑張った。田家でんけ待望の子じゃ!」


漢王室かんおうしつが豪族や賊を好き勝手させておる中、無事に育てられるのかね」


「そこが悩ましい所じゃ。もう後漢ごかんは終わりじゃ」


 漢王室だって! 漢という国の王族の総称じゃないかそれに後漢は三国時代が来る前の王朝じゃないか!


 私は謎の声が言った意味を理解する。


 三国志の世界で生まれ変わったのか! 確か田家と言ってたな……あまりぱっとしないが田が付く名前の武将で有名どころは――うーん。


 あ! もしかして私は田豊でんほうなのか⁉ 有名どころではないが袁紹えんしょうの二大参謀の一人だったはず。 過去の時代を今世と言うのは違和感あるけど、今世では出世しまくって、結婚もして贅沢するぞ!


 ……まぁ、文明レベルからして贅沢は知れてるけど。前世では三国志に関する事以外、お金を使ってなかったんだ。自分でも変人だと思うけど、この大好きな三国志の世界で人生をやり直す! 


「よーしお前の名は!」


 父親が私に命名するらしい、私は満足に体を動かせないので、手足をばたばたと動かして名前を呼ばれるのを待つ。


「姓は当然、田。そして名は! 田豫でんよだ!」


 え? ええええええ! 田豫ってかなりのマイナー武将じゃないか! 確か清廉潔白で無欲無私の度がすぎて家族を困窮させてたような……その上、讒言ざんげんされて左遷させられてた話も聞いた事ある。


 私は前世の時代の田豫とは違う! 必ず、この時代をのし上がってやる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る