間章2
青柳泉→小鳥遊言葉
困惑と興味
初手の感想、「何だコイツ」。
「お前が主席で合格したっていう
「…………………………はぁ」
明け星学園。その入学式の次の日、突然知らない人が凸って来た。誰だこの人……いや、なんか、おぼろげな記憶で、見たことがあるような、無いような……。
僕は渡された紙を見る。そこには生徒会の仕事の一覧。一番下には、「私は生徒会にてその使命のもと、明け星学園の生徒の為に公務を執行します」と……まあそんな文面があった。これにサインして提出したら、僕は生徒会に入る、ってわけか。
教室から立ち去ろうとしていたその男の人は、あっ、と短く言ってから、僕の方を振り返った。
「俺は明け星学園の生徒会長の
青髪に、爽やかな笑み。僕はどうやら、彼に目をつけられてしまったらしい。
生徒会に入るつもりなんて、全く無かった。
紙は家の机の引き出しの奥の方にしまって、そこから取り出すつもりなんて、全く無かった。
だって仕事とか読んだら、だいぶ面倒くさそうだったし。……僕が役に立つなんて、全く思えないし。
だからのんびり4月を過ごして、思いっきりスルーしてやろうと、そう決めたのだ。
それが変わってしまったのは、あれがきっかけだった。
「オラッ! ……はい次、お前の番〜」
「おう。……おりゃっ。……あ、マズ、強くやりすぎちまった」
「気をつけろよ? 殺しは流石にマズイからな」
「でもこんな雑魚死んでも、誰よ困んねぇだろ」
「確かに」
耳障りな笑い声だった。芋づる式に、嫌なことを思い出しそうになる。深呼吸をしてそれを遠くにやると、僕はその声の方を見た。見てしまった。
集団リンチだった。1人の生徒が、一方的に蹂躙を受けている。……しかも異能力で。……ヤバくないか? この学園。校舎裏、こんなわかりやすいことで、治安悪いことが起こってる……異能力を用いて。最悪、死ぬ。
「……あ〜〜〜〜」
めんどくせぇ、僕はそう小さく呟いてから、その声の方へ足を向けた。そして。
「……ちょっと、集団で1人を痛めつけるなんて、人間としてどうかと思うんだけどぉ〜?」
「……あ? 何だおま、」
え、と言い切る前に、僕は異能力でそいつをぶっ飛ばした。「Stardust」。文字を操る、という僕の異能力だ。
ぶっ飛ばされたやつは、何が起こったかわからない、と言いたげに目を白黒させていた。……ま、超高速で投げたし。よっぽど訓練積んだやつでもないと、避けられないっしょ。
そして事態にようやく頭が追いついたらしき仲間たちが、異能力を用いて僕に襲いかかってくる。僕はため息をついて。
「……ぬるいんだよ」
異能力を完全開放。1発で、そいつら全員をぶっ飛ばしてやった。
こういう時、この後どうすればいいんだろう。
そう思いつつも、僕は振り返る。一方的に蹂躙を受けていた、その生徒が気になったからだった。……。
「……あんたは……」
「……は、は。助けてもらって……ッ、悪い、な、小鳥遊……」
先日僕を生徒会に勧誘した生徒会長、青柳泉だった。全身傷だらけで、顔に笑みを浮かべているものの、何とか喋っている、という感じだ。え、何で……。
だってこいつ、生徒会長でしょ? 何でそんなやつが、こんな陰湿な暴力を受けて……。
「ちょ、ちょっと、あんた、大丈夫?」
「……は、ヤバい、な、あいつら、遠慮なく、殴りやがって……ッ、くっ、」
「……え、ちょっと!」
彼は小さく呻いたかと思うと、地面に倒れた。それを見ているのは、僕ただ1人。
ど、どうしよう。このままだとこの人がヤバいってことは、わかる。だからこそ、どうしよう。だって僕は、異能力を使った後で。この人が、怖くて。触れるなんて絶対無理っ……。で、でも……。
「……ああもう……!」
何とか僕は、彼を抱きかかえて保健室へと向かった。その後僕は恐怖から過呼吸になってしまって、ついでに保健室で休ませてもらった。ようやく落ち着いた頃には彼の治療も終わっていたようで、さゆりちゃんに貴女のお陰よ、ありがとう。とお礼を言われた。僕は……そんなにお礼を言われるようなことは、してないけど。結局過呼吸になっちゃったし。
そしてこれはついでに聞いた話。どうやらこの、青柳泉という生徒会長。こういうことが頻繁にあるらしい。というのも、青柳泉の異能力は……とても弱いらしい。あってもなくても誰も困らない、そんな異能力。在校生の間では、「ほぼ無能力者」、「史上最弱の生徒会長」と呼ばれているとか。
だから彼は校内の生徒のほとんどからナメられており、風評被害を受けているとか。先代の生徒会長がとても強く優秀だったから、余計に酷いらしい。
……こいつはどうして、生徒会長になったんだろう。
その時僕は、青柳泉という人間に、興味を抱いてしまったのだった。
扉をノックをすると、中からどうぞ〜、と声が聞こえた。失礼します、と僕は扉を開く。
「……おお小鳥遊、よく来たな」
「……どうも」
「あ、前はごめんな。助けてもらって、まだ礼も何もしてなかった。……そうだな、とりあえず茶菓子でもどうだ? 生徒会室だからな、高いのがあんだよ」
「会長」
僕は彼の座る生徒会長の席までツカツカ歩く。そして、その机にバン、と置いたのは。
「僕、生徒会に入ります。よろしくお願いしますね、会長」
「……え、あ。……どうも?」
生徒会に入る。その証に僕のサインを入れた書類。
驚いたように目を見開く彼に、僕はふふん、と笑ってやるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます