ソフトテニス部で高速ラリー
しばらく走って、陸上部からかなり距離を取れたと思う。どちらからともなく足を止め、2人で必死に呼吸をしていた。
「わ……私……今日だけで、っ、一生分、走った気がします……」
「は……ははっ、俺も……」
思わず2人で笑ってしまう。乾いた笑みだった。
「あの人ー……勧誘すごいんだよね。ちょっと実力ありそうな人見るとさー……」
「……なんで私のこと連れて行ったんですか……」
「うーん……でもあの人だったら、飛び入りでも受け入れてくれそうだったから」
いや、その部活体験、みたいなものを私にさせた理由を聞きたかったのだが。しかしそう言う前に、先輩は声を上げ、ある方向を見つめた。
「あっ、次はあそこ行こっか!」
……それに反対しなかったのは、息切れのせいで声が上手く出なかったからだ。
というわけでやって来たのは、ソフトテニス部。
この部活は、女子の数が多かった。というか見える範囲で、女子しかいなかった。……そして大半が、私を睨みつけていた。居心地が悪い。
だが友好的に接してくれる人もいた。私と仲良くしたら雷電先輩とも仲良くなれる、的な打算じゃなさそうな人が。
「部活動体験? いいですよー」
間延びした声で答えたのは、ソフトテニス部の部長さんらしい。やはりこういう時に出てくるのは、絶対に部長さんみたいだ。……陸上部の部長さんみたいな人じゃないといいな……。
はいっ、と部長さんにラケットを握らされる。……しかし思い出すのは、1学期のこと。
しかしそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。部員の人(なんかこちらを睨みつけている)が球出しをしてくれるらしい。……打ち返せない自信しかない。というかあの態度だと、とんでもない球を打たれそうだ。
もはやどうにでもなれ、と思い、私はラケットを構える。部員の人がこちらを小馬鹿にしたように口角を上げ、そしてボールも天高く投げると……。
スッパァンッ!!!! と清涼な音が辺りに響き渡り、とんでもない剛速球が私に迫った。
はや、と思った私だったが……。
私は全力でラケットを振るい、それを打ち返した。
周りから驚愕の声が上がる。当たり前だ。だってここにいるほとんどの人が、1学期の私を見ている。そんな私が、あの剛速球を打ち返したのだから。
だが一番驚いているのは、正直私だった。だって、ボールがどんな軌道を描いてこちらに来るのか、読むことが出来る。変化球だとしても、スローモーションでそれがくっきりと見える。どのくらいの力で打ち返せばいいか分かるし、体はその指示に合わせて動いてくれる。
結果的に、私はコート内に返球をすることが出来た。
一瞬呆けていた部員だったが、すぐに気を取り直す。彼女は見事に打ち返して見せた。さっきよりももっと早く。
だがそれで怯む私ではない。的確に打ち返して見せた。
しばらくそんな感じで、ラリーが続く。高速ラリーが。……少し前の私ならもうとっくにバテていたし、何度空振りをしていたことだろう。
だけど、見える。動ける。息をするように、簡単に。
遂に部員は、普通にテニスをすることをやめたようだ。彼女が打ち返した、その瞬間……ボールは、あらぬ方向に動き始める。左右へ、上下へ。不規則な螺旋を描いて。
物体の遠隔操作の異能だと、すぐに気が付いた。
慎重に見る。それから相手の分析も忘れない。……彼女は確実に雷電先輩に好意を寄せていて、あからさまに私のことを目の敵にしている。……だったら先輩の前で、私に恥をかかせたいと思うのが筋だ。例えば、打ち返せるコースに来たボールに対応出来なかったら……だから。
不規則に動いていたものの、私のガードが緩い……足元に、高速でボールは向かっていると分かる。だから地面を跳ねると思った、その瞬間……私のラケットが、それを拾い上げた。
だが、ただ真上に上げてしまったので、彼女の異能力を真似する。……不規則なコースを描き、しかし最終的には、彼女が構えているラケットのド真ん中を、狙った。
イメージは拳銃。ボールを弾丸に見立て、目にも止まらぬ速度で……貫く。
……まあ真似と言っても、テレキネシスを生成するというのはイメージが湧かない。結局は、乱気流を発生させて不規則な動きを再現していただけだ。
「きゃっ……!?」
彼女は直線だったこともあり、しっかりラケットにボールを当てた。当てた、のだが、それはこちらのコートには戻ってこなかった。大きく跳ねあがり、コート外に……落ちる。
それで、私の勝ちが決まった。
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