変な噂で私のことを呼ばないでください

「──帆紫!!」


 そこで後ろから声が飛んでくる。振り返ると、そこにはココさんの姿が。……そしてココさんは私たちになぞ目もくれず、持木くんに駆け寄った。……いや、別にいいのだが。感謝をされたくてやったわけではない。


「帆紫……!!」

「……こころ、ね」


 そこで持木くんが、ココさんの声に反応し、目を覚ました。隣にいる言葉ちゃんが、一瞬警戒するように身構えたのがわかったけど……すぐにそれは解かれる。

 もう、心配をする必要は無さそうだ。


「……心配かけて、ごめんな……」

「っ……ほんとだよ、ばかっ……」


 泣くココさんに、持木さんは小さく微笑みかける。そして、再び気を失ってしまった。

 それを見つめながら、周りに徐々に人が集まっていく音を聞く。それで何となく、

「終わったんだな」、と実感することが出来た。


「とーこちゃん、とーこちゃん」

「……何ですか……頬を飴で突かないでください」

「これはお疲れ様の意味を込めて、だよ!! 僕からのごほーび」

「……はあ……」


 私は気の抜けた返事をしながら、仕方なく飴を受け取る。……イチゴ味だった。嫌いじゃない味だ。

 包み紙を丁寧に開けてから、深紅の飴玉を咥える。口の中に甘くて酸っぱい……そんな味が、ふわりと広がった。


「流石だね」

「……何の話ですか?」

「あはは、とーこちゃん、僕に聞いてばっか」

「……貴方が言葉足りずなのがいけないんでしょう……」


 少しでもイラついたら負けだ。そう言い聞かせ、私は黙ってその言葉の続きを待つ。

 彼女は飴を操るための棒を指先で摘み、口の端を上げて、言う。



「『A→Z』、そして、『Z→A』」



 私は、動きを止めた。

 目線だけ、言葉ちゃんの方に向ける。それが睨んでいるように見えたのか、言葉ちゃんは笑いながら、顔怖いよ~? と、全く怖がっていない様子で答えた。

 ……まあ、実際睨んでいたかもしれない。


「何だっけ、『唯一生徒会長に匹敵することが出来るっていう強い異能力を持つ転校生』……だっけ?」


 本校の生徒会長様は、私の噂もご存じらしい。私は再びため息を吐いて、変な噂で私のことを呼ばないでください、と言った。






 この時の私は、まだ知らない。この一連の騒動は、更に大きな騒動の幕開けに過ぎない……ということを。



【第1話 終】

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