「助けさせてください」
「……」
……これで私が、実はへっぽこ異能力者でしたー、とかだったら、どうするつもりなんだろう。
思わず私は、ため息を吐いた。ここ最近は、周りが忙しな過ぎてため息を吐く暇すらなかった。だからまあ……今日くらいは許してほしい。
座り込み、祈るココさんになぞ目もくれず、私は前に出る。もう汗に気を取られる必要もない。……全て消してしまったのだから。
「……灯子ちゃん……?」
「……期待はしないでください」
「……あ、ありが……」
「だから、期待はしないでくださいってば。……あと、言葉ちゃんを呼んできてもらえますか? ……たぶんあっちの方が役に立つので」
「わ、わかった……」
後ろで、ココさんが走り去る音が聞こえた。そしてその音は遠ざかっていく。ここに残ったのは、私と持木くんだけ。
……さて。絶対怒られるから、気は乗らないのだが……。
「……持木くん、聞こえていますか?」
「……」
「ココさん、貴方のことが好きらしいですよ」
「……」
「……やはり駄目ですか。まあ、初めから期待していません」
そう、期待なんてしない。
常に最悪を想定する。
……だって世界はどこまでも冷たく、どこまでも残酷だ。
「……不本意ですが……貴方を助ける、というお願いを引き受けてしまったので……僭越ながら、助けさせてください」
そう言って私は、一歩一歩、持木くんに近づいていく。しばらく彼に近づくと、彼の中のパーソナルスペースに私は足を踏み入れたのだろう。持木くんは……私の方に手を向けてきた。そしてその手から飛び出すのは……もちろん炎。それが一直線に、私に向かってくるが……私は、避けなかった。
何故ならそれは、消滅するから。
向かってきた炎は、私に触れる直前に虚空に消える。流石にこれには、持木くんも表情を動かした。そして次々と炎を投げてくる。しかし結果は同じ。全部消えるだけ。
すると持木くんはアプローチを変えてきた。床に炎を出すと、その炎で私のことを囲む。何をするつもりなのだろう、と呑気に見守っていると、その炎は床を燃やしていった。……なるほど、直接当たらないから、床をくり抜いて私を床下に落とそう……っていう魂胆か。
全てわかった私は、少し屈んで床に手を置いた。……すると、焼けていった床が新品な床になっていく。傍から見たら時を戻しているように見えるかもしれないけど……それは違う。まあ、面倒なので説明は後で。
……さて、あまり遊びすぎるのも良くない。私は再びため息を吐くと、持木くんに近づきつつ告げた。
「……言葉ちゃん、いるんでしょう? ……見てないで、助けてください」
「はいはーい。ごめんねぇ、僕の出番はないかなぁ、って思ってさ」
私の呼びかけに答え、言葉ちゃんは上から降って来た。……まるで、初めて会った日と同じように。
その白々しい発言は気になったものの、今はそっちではない。私は持木くんに向き直った。
「さて、どーすんの?」
「……何で私に聞くんですか……」
「だってあの子、君の友達でしょ?」
「……別に、友達じゃ……」
「ありゃりゃ。冷たーい」
「……ほっといてください。……それより」
わかってるよ、と言葉ちゃんは笑う。……緊張感が無い人だ。人のことが言える立場ではないけど。
「ねぇ、灯子ちゃん」
「……何ですか?」
「君の役目だ。君が僕を動かすといい」
……初日、「僕は誰の制止も受けない!!」と意気揚々と告げていた彼女は、一体どこに行ったのか……頭の片隅でそんなことを考えつつ、私は口を開く。
この人相手に、押し問答をしても無駄。初日でわかっていたことだ。
「私が彼の動きを止めます。その間にどうにか気絶させてください」
「おっけー!!!!」
彼女の返事を合図に、私は一気に駆け出した。燃え盛る炎には目もくれず。もちろん持木くんはどうにか私の動きを止めようと、いくつもの炎を差し向けてきた。……効くはずもないけど。
彼の目の前にまで迫り、今度は私が彼に向けて手を向けた。そして集中。……想像するのは、水。空気中の水素と酸素を、混ぜ合わせて……。
「……!!」
持木くんが、微かに息を呑む。私の手から出てきた洪水は、持木くんの姿を一瞬隠した。お陰で、持木くんを取り巻いていた炎も消える。
……仕上げだ。私は、両手でその他の炎に触れた。意識を集中させて。……すると、辺り一帯の炎が一気に消える。消せたのは、今触れた炎と繋がっていたやつだけだから、全ては消せなかったけど……ここまで消せたら、十分。あとは……。
──私が切り開いた道を通って、彼女がやってくれる。
「──、」
持木くんの死角から、飛び出す影があった。誰か、と尋ねるのは野暮だろう。……言葉ちゃんは、その手にまとったいくつもの文字を、持木くんの鳩尾に思いっきり……ぶん投げて、ぶつけた。
持木くんの体は、無抵抗に後ろに倒れる。……それと同時に、周りに残っていた炎も消え失せた。……完全に持木くんが気絶した証拠だろう。……。
「死んでませんよね?」
「失敬な」
ベシッ、と言葉ちゃんが私の頭をひっぱたく。何気に痛かった。
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