改めて……

「改めて、カーラです。……カーラ゠レインボー・パレット。……今まで通り、カーラって呼んでくれればいい、です」


 よろしくです、と、カーラさんは頭を下げた。それに対し、よろしく~、……どうも、などと各々が自由に答えていく。カーラさんは顔を上げると、嬉しそうに微笑んでいた。

 海中要塞に戻って来た私たちは、一仕事を終えたことに安堵し、休憩をしていた。そんな時にカーラさんが自己紹介をし始めたのである。まあ、あんなに会って一緒に行動してきたが、主人格と話すのは初めてだもんな……。


「質問なんだけどさ、お前って……まだ、異能力は残ってるの?」


 そこで泉さんが脈略もなく質問を投げかける。それはきっと隊長としての仕事なのだろう。……異能力を持っているかいないかで、きっと対応の仕方が変わってくるから。

 カーラさんはその言葉を受け、小さく頷いた。


「残ってる、ます。……今まで通り、7つの効力……そしてカーラも、カーラとしての色……虹色の異能が、出たみたい、です。効力は、ランダム……カーラにも、何が出るか分からない、です」

「そっか……つまり、合計で8つの異能か。すごいな……」


 泉さんが苦笑い交じりに感想を述べる。確かに、1人だというのに8つも異能力を持っているというのは──人格は確か、7つを併せて「color pallet」という異能だと言っていたが、それでも見た目は1人なので──異例中の異例だろう。しかも元無能力者だったのだから、余計に珍しい。


 そこでカーラさんは、何故かその言葉に対して、少し気まずそうな笑みを浮かべた。……もちろん泉さんも気づいて、どうした? なんて問いかける。


「えっと……その……」

「うん」

「……この、8つの効力……自分で使い分けるの、その、難しく……なっちゃった、です。だから、今までみたいに……作戦に合わせてその場に合った効力が使えるか、どうか……」

「……あー、なるほどな」


 カーラさんが気まずそうにしていた理由が分かり、泉さんは頷いた。


「……まあ、納得だな。今までお前の中には、7人の人間がいたと言っても過言ではない。異能力は原則、1人1つ。……そんな7人の人間が、1人に集結されて、そしてその1人も異能力を発現したとなったら……到底1人で扱えるもんじゃねぇ。むしろ、全ての効力が残ってることが奇跡だな」


 そこで部屋の隅で腕を組んでいた忍野さんがそう告げる。……確かに、そうなると扱いが難しくなるのも頷ける。


 ……異能力は原則、1人1つ……。

 思わず自分の手を見つめ、それから私は、忍野さんのことを見つめた。


「……まっ、そこは了解。気負う必要はねぇよ。そこは練習次第でどうにかなる可能性もあるし……何があっても、仲間がサポートしてくれるだろうし」


 な、と、泉さんが私たちに視線を送る。その視線に促されて、私たちは大きく頷いた。

 それを見たカーラさんは、顔を綻ばせる。


「それじゃあ、カーラ゠レインボー・パレット。……改めて、『湖畔隊』へようこそ。これからもよろしくな!!」


 泉さんはそう言って、カーラさんに手を差し出した。カーラさんはそれを見つめてから……そこに両手を重ねる。


「うん、よろしくです!! 隊長、みなさん!!」


 そして7色の瞳を細め、輝く笑顔を見せた。


 ──────────


 わたしは、カーラ・パレット。それが名前。


 でもカーラの出身地では、秘密の名前を付ける文化があるんだ。それは、大事な人だけに伝える、深い愛の込められた名前。

 いつか、カーラが伝えたいと思う人に出会ったら、伝えてあげて。パパとママは、そう言ってカーラの額にキスをした。


 ねぇ、パパ、ママ、カーラね。この名前を教えたい人に出会ったの。

 ちょっと変な人たちなんだけどね。でも、とってもいい人たちよ。カーラのこと、すっごく大事にしてくれた。カーラに手を、光を伸べてくれたの。お陰でカーラね、すごい勇気が出たんだ。

 それにね、カーラが生み出したんだけど、7人の友だちも出来たの。その子たちも優しくて、いつでもカーラの背中を支えていてくれるんだ。


 これから、どれだけ空を覆いつくすような暗闇が待っていたとしても。

 カーラ、負けないよ。希望を信じて、立ち続けるよ。





 わたしは、カーラ゠レインボー・パレット。

 みんなの希望に、なってみせるよ。





【第34話 終】

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