自分から触れる

「大智っ!!」

「わぁっ!? ……か、カーラさん……ッ、」


 喜びに浸っていたも束の間、カーラが背中に飛びついて来て、大智は思わずよろける。……しかし体を持ち直すと同時、カーラが呟いた。


「……良かった、です。大智……いい顔してる、ですよ」

「……」


 その状態で思わず静止し、大智は言われたその言葉を噛み締めてから。


「……っ、うん、僕も、そう、思います」


 カーラが大智の背中から離れ、大智はカーラの方に向き直る。……そしてカーラが大きく腕を広げ、笑った。大智も、不器用ながらも笑い返す。そして大智は、地面に膝をついてカーラと目線を合わせると。

 そのまま、カーラの小さな体を抱き留めた。


 誰かから触れられることはあっても、自分から触れることは恐ろしくて。こんな自分が触れていいのかという思いがあって。


 それでも今、大智は少しだけ、自分を認められるようになって。

 こうして、自分から触れることが出来た。


 抱きしめ合う、その温もりに、大智の目尻に涙が浮かぶ。……そして大智は、静かに泣いた。

 悲しいのではない。嬉しいから、泣いたのだ。


 今の自分は、少し、ほんの少しだけだけれど。……今までの自分より、ちょっぴり、好きだ。



 ──────────



 私は大智さんが戦うのを横目で見つつ、自分で動けそうな一般客には自分で逃げるよう指示し、その誘導をしていた。……1回だけ、手助けしてしまったが。任せてと言われたのに。

 ……まあ、結果オーライだし、いいか。


 味上を倒した大智さんとカーラさんが抱き合う傍ら、私は味上を縛り上げていた。……こういうのは邪魔しないのに限る。完全に私は邪魔なので。努めて存在感を消す。私のことは景色の一部だとでも思っておいてほしい。


 だがしかし、この場の空気を読めない人もいたようだ。


「……おい、大智!!」


 名前を呼ばれ、大智さんは顔を上げる。……そしてカーラさんを抱きしめていた腕を解くと、彼女を背に庇った。

 彼に呼びかけたのは、頸動脈を切り裂かれて重傷だった男。私の「Z→A」でどうにか血を補給し、皮膚を生成して覆った。……ものすごく、緊張したが。上手くいって良かった。


 彼らのことを守ってほしい、と私に言った大智さんだったが、その男を見つめる彼の瞳は……とても険しかった。様々な感情が渦巻き合っているのか、その表情はどこか複雑そうで。……しかし、後ろからカーラさんに服を引かれると、彼は少しばかり彼女に微笑みかけてから……男の方に、目を戻した。


「……僕は、対異能力者特別警察特別部隊、『湖畔隊』の尊大智だ」

「……は……?」

「僕は、ここに来て良かった。だから、もうお前らになんて興味がない。……もう、どうでもいい。お前らと僕には、何の関係もない」


 大智さんはきっぱりと、そう言い切る。……男は余程驚いたのか、口をパクパクとさせていた。

 大智さんは冷たい視線でそれを見ていたが、ふい、と目を逸らすと。


「……怪我、治って、良かったね」


 小さく呟く。もう男に用はないと言わんばかりに、大智さんは踵を返した。

 そして私に近寄る。その顔には、どこかすっきりとしたような笑みがあって。


「……後は、っ、その、任せても……いい、ですか……?」

「……はい。任せてください」


 ありがとう、と大智さんは呟き……足早にその場を去る。カーラさんは大智さんと私を見比べていたが、私がひらひらと手を振ると、私に手を合わせてから大智さんの背中を追って行った。


 さて、私は私の仕事をするとしよう。そう思い、ぽかんとしている男の背中を叩いた。この後、事情聴取などに協力してもらわないといけないのだ。大智さんと何があったのかは知らないが、しっかりしてほしい。



 ──────────

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