第17話「海に沈む」

緊急の全校集会

 言葉ことはちゃんといずみさんと食事をした、そして変な2人組に絡まれた次の日、私──伊勢美いせみ灯子とうこは、普通に学校だった。


 ……というか、昨日は色濃い1日だったな……泉さんに会いに行ったら、変な男の集団に絡まれるし、泉さんが前生徒会長だったと分かるし、生徒会長の仕事は手伝わされるし、夕飯食べに行って変な2人組に絡まれ……。1日で2回絡まれているじゃないか。不幸すぎる。私のような人間は、他に存在しないだろう。


 はぁ、とため息を吐きつつ学校まで歩いていく。今日は2時間目からだから、ゆっくり登校していた。時間ギリギリまで寝たとはいえ、学校が億劫なのか、欠伸が出てくる。


 ……そういえば、泉さんに使われたせいで無残な姿になった教科書……いつ新しいのをくれるのだろうか。明日それを使う授業があるのだが。前回と同様、ココちゃんに見せてもらってもいいけど……いつまでもそうするのも、迷惑だろうし……。


 そこまで考えたところで、鞄の中に入れていたスマホが音を出して震えた。これは、学校からの連絡である。それ以外は音が出る設定にしていないから、分かるのだ。まあ滅多に連絡が来ないので、正直今初めて役に立ったのだが……。

 道の端で立ち止まり、スマホを開く。着ていた通知をタップすると……。



『生徒会長からのお知らせ☆


 本日、6時間目の後……まあ終わってから10分後に、緊急の全校集会を行いますっ!! それなりに大事なことを話すので、もし予定がなくて参加できるよ~、って人は参加してね!!

 場所は体育館!! でもライブ配信もするから、現地に来なくてもいいよ~。今日の放課後は予定があって、すぐには見れない~って人には、アーカイブもあるから安心っ☆


 じゃっ、皆、また放課後にね~!!


 生徒会長 小鳥遊言葉』



 ……。

 学校からのお知らせでも、あの人はこういうテンションなんだ……。


 もっと普通は、厳かな感じなのではないか? とも思ったが、この学校だし、あの人だし、そんな常識は無粋だろう。そんなことを思いつつ、私はスマホをしまうと歩き出した。


 放課後。もちろん、私に予定はない。行くのは面倒だけど……大事な話ということは、どこかしらでは確認しないといけないのだ。だったら今日中に済ませてしまおう。


 ……それにしても、珍しく全校生徒を集めてまでする、大事な話とは一体何なのだろう……。

 考えてみたが、全く思い至ることはない。どうせ今日中に分かるのだし、考えても仕方ないか、と思い直す。


 そうこうしている内に学校に辿り着き、私の思考は次の授業のことに塗り替えられた。





 ココちゃんこと持木もてぎ心音こころねちゃんと、ココちゃんに無理矢理連れて来られたらしい、死んだ目をした持木もてぎ帆紫ほむらくんと共に異能力基礎Ⅰの授業を受け、その後は違う授業なので、別れた。

 そしてまた授業──今度は数学である──を受け、少し早めの昼食を摂り、その後は放課後まで時間を潰すため、図書館の自習スペースに引きこもった。


 昨日と今日の授業の復習と、明日の授業の予習を終え、私は小さくため息を零す。さすがに疲れた。購買まで甘いものでも買いに行こうかと立ち上がると、ピンポンパンポン~、と軽やかな音が響き渡る。


『──こんにちは。お昼の時間になりました。皆さん、きちんとお昼を食べて、午後の活動に備えてくださいね』


 毎度のごとく、放送委員会委員長という人の放送だった。昨日も喋っていたというのに、今日も喋るらしい。


『さて、本日9時半ごろに全校生徒にメールが届けられましたが……たぶん一定数は見ていないでしょう。というわけで私、音宮おとみや鳴子なるこが会長にパシられ……んんっ、失礼、頼まれましたので、口頭で通告です』


 パシられたらしい。


『本日、6時間目終了後、緊急の全校集会が開催され、大事なお話がされるようです。場所は体育館。同時にライブ配信もしますし、アーカイブも残りますが、もし暇でしたら来てくださいね。……ちなみに私も大事な話の内容は知りません。一体どんな話がなされるんでしょうね? ……では、予想もしつつ、放課後までもう少し。午後も頑張っていきましょう。以上です』


 再び軽やかな音が鳴り、放送は終了する。……放送委員長でも知らないのか……。体育祭の時、言葉ちゃんと仲良さそうな感じがしたし、てっきり知っているかと思ったが……。


 だが、やはり考えても仕方のないことだった。私は購買に向かい、チョコクッキーを買うと、再び自習室に戻って勉強をするのだった。




 それから、まあ、すぐに飽きてしまったので、私は読書に興じていた。いつの間にかその内容に夢中になってしまっていたようで、結末に驚き、納得し、満足し、そうして本を閉じた時には、気づけば放課後になっていた。

 時刻は6時間目が終わってから10分経っている。丁度集会が始まる予定の時間だ。


 図書館から出るが、人の姿はない。どうして私は気づかなかったのだ、とも思うが……まあいいか。遅れても、減るものではないし。


 だから私はマイペースに、のんびりと廊下を歩いていた。やはり校内に人の気配はない。いや、たまにイヤホンを耳にスマホを凝視している生徒の姿があるが。どちらにせよ、きちんと「大事な話」に関心を抱いているらしい。


 体育館に着いたのは、6時間目が終わってから15分後のことだった。中からは何やら話し声が聞こえる。当たり前だが、もう始まっているみたいだ。

 重い扉を、全体重を乗せて開くと同時。

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