裏の顔を暴くまでは

「とーこちゃん!! もーっ、どこ行ってたの!! どこにもいないから、トイレから異世界転生しちゃったかと思ったよ!!」

「どういうことですか……」


 最近の小説でもそこまで攻めていないだろう。いや、もしあったら申し訳ないので、謝罪しておく。


 店に戻ると、やはり2人は私のことを探していたし、心配していた。支払いを終え、店の前で私に鬼電していたらしい。……サラダ1つしか食べていないとはいえ、奢ってもらったのは申し訳ない。


「お金、返します。何円ですか?」

「いいよいいよ、もともと俺が奢るって話だっただろ?」

「それはそうですが……」

「ははっ、伊勢美は礼儀正しいな~。……奢られる気満々だった小鳥遊とは大違い」

「ちょっと先輩!? 僕が卑しいみたいな言い方やめてくれる!? ……って、そうじゃないでしょとーこちゃんっ!!」

「え、なんですか……」

「何、じゃないーっ!! どうして!! いなく!! なっちゃったの!!!!」


 ……先程うるさい人に絡まれ、戻ってきてもうるさい人に絡まれる。私の鼓膜が心配だ。


「……何やら店の外から視線を感じたので、追ってみたんです。そうしたら、2人組に絡まれて……お2人のことを知っていた様子でしたが、心当たりはありませんか?」


 そして、すぐに約束を破る私だった。


 それはそうだろう。守る義理などないし、二度と会わないのなら私が約束を破ったということを向こうが確認することもない。そして情報は共有しておいた方が良いだろう。


 私の発言に、2人は顔を見合わせる。それから再び私に視線を戻すと。


「……とーこちゃん、そんな危ないことになってたなら呼んでよ!!!! せっかくやっと連絡先交換したのに、君は報連相がなってないーーーー!!!!」

「うるさ……」

「伊勢美、その2人組の特徴は?」

「えっと……男が1人、女が1人でした。暗かったので、姿はよく見えませんでしたが……女性の方が、男性をこき使っている感じで……」

「……ふーん……」


 夜だというのに騒ぐ言葉ちゃんとは対照的に、泉さんは冷静に私に質問を投げかけてくる。……同じ役職を務めていた/務めている2人だというのに、ここまで変わるものなのだろうか……。


 私の回答を聞いた泉さんは、顎に手を添えて考え込んでいた。……すると再び、言葉ちゃんに視線を投げる。言葉ちゃんは一瞬だけそれを受け取り、そして返していた。

 ……その間で黙る、私。


「……悪いな。心当たりはない」

「僕もないかな~……。誰か分かんないけど、また絡まれるかもしれないからね。警戒してよ? っていうか、僕を呼べ!!!!」

「……考えておきます」


 うるさい人が2人、しかもエンカウントしてしまうなんて、考えただけで頭が痛くなるので、そう言うだけに留めておいた。

 いや呼べよ!!!! と叫ぶ言葉ちゃんの横で、泉さんは手を叩いて笑う。……その仕草は、言葉ちゃんとよく似ていた。


「まっ、無事だったならとりあえずそれでいいじゃん。……もう夜遅いし、帰ろーぜ。じゃないと、本当にヤバいやつに絡まれかねないし」

「……そーだね。帰ろっか」

「……はい」


 先陣を切って歩き出した泉さんに、言葉ちゃんが続く。それに、私も付いて行って。


 ──恐らく2人は、何かを隠している。


 確証はない。そもそも私に人の嘘を見抜くなんて高度な芸当は出来ない。2人の言葉に嘘っぽさなど1つも見当たらなかった。


 ……でも、2人が視線を交わした時。

 ──その視線がやけに鋭かったのが、気になったのだ。


「伊勢美、お前って家どのへん? 送ってくよ」

「え……いいですよ、そんな気を遣わなくても……」

「僕たちは先輩なんだから、後輩を守るのはとーぜんでしょっ!! ちなみに僕も泉先輩に送ってもらう~」

「はは、まあこの中だと、俺が年長者だからなー。任せとけ」

「先輩、頼りになる~!!」


 大好きっ!! と叫ぶ言葉ちゃんに、近所迷惑ですよ、と私は呟く。


 ……とりあえず確証もないので、今は保留だ。



 ──



 そして。

 先程灯子に絡んだ2人は、夜道を歩いていた。


「……さすがに、接触するのは……やっぱり、マズかったんじゃないかな……」

「は? 何、私に指図する気?」

「そ、そういうんじゃ……ただ、危ないっていう……」

「はーっ、相変わらず小心者ね!! でも、少しくらいの危険は犯さないとでしょ!!」


 そう言うと女は、固く拳を握りしめる。



「青柳泉……あいつの裏の顔を暴くまでは!!!!」



 夜道に彼女の声が響き渡る。


 ……かと思えば、女は男の方を振り返り。


「ってか、あんたも付いて来たんだから同罪なんだからね」

「えっ……ええっ!? で、でも、だって、僕は無理矢理連れて来られただけ……」

「あーっ、つべこべ言うんじゃないわよ!! 男なのに二言言う気!?」

「な、何か言って付いてきたわけじゃ……っ、あっ、待って、置いて行かないで……!!」

「あんたが遅いんでしょ!? ったく、ほんっと鈍くさいわね!! ……」


 そうして2人の姿は、夜の暗闇に溶け込んで……消えていった。



【第16話 終】




第16話あとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330663621293233

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