第36話「文化祭準備【後半】」

早朝の撮影

 文化祭準備、2日目──。


 私、伊勢美いせみ灯子とうこはまたしても学校へ向かっていた。登校がてら、私は深々としたため息を吐く。なんか、授業もないのに学校に行くの、面倒くさい。いや、まあ今回は、前々から決まっていた予定があるからいいのだけれど。

 ……問題は、もう1つ、昨日決まってしまった新たな予定の方。


「おはよう、灯子!! ……どうした? 朝だというのに元気がなさそうだぞ!!」

「……朝から元気な方が怖いです……」


 校門に辿り着くと、そこには既に人影が。……長い黒髪をポニーテールにし、首から下げたカメラを両手に満面の笑みを浮かべている。朝から随分と立派な大声だ。もちろん皮肉である。


 この人が、突如昨日私に予定を追加した……明け星学園の卒業生で、元生徒会長。にのまえあいさんだ。今、明け星学園の理事長代理でありこれまた元生徒会長である、青柳あおやなぎいずみさんに依頼されて、文化祭準備の様子を撮影に来たということだが……。

 私は愛さんに、学園内を案内してほしいと、昨日頼まれてしまった。断る暇もなくそれが決定してしまい、文化祭での私の仕事が1つ増えてしまったわけで。


 で、今日も今日とて手伝うことになり(いや、私はそこまで役に立っていないが)、愛さんと待ち合わせをしたわけだが……。


「……というか、まだ日も昇っていないじゃないですか……こんな朝早くから集合する意味って……」


 あるんですか。後半に行くにつれて口を動かすのも億劫になり、言葉はもはやため息となってしまった。

 だが私の意図をしっかりと汲んだらしく、愛さんは相も変わらず大きな声で答える。


「ああ!! 朝早くから準備をしているところが多いからな。というか、文化祭準備となると学校で寝泊まりする学生が増えるのだが……。まあそれはともかく、既に校内では活動が始まっているようだぞ。行こう!!」


 結局、ろくな説明はされていない気がする。だが私に拒否権などあるはずもなく。私は愛さんに手を引かれるまま、明け星学園へと足を踏み入れた。





 中では確かに、活動が始まっていた。早朝ということもあり、あまり音が立たない静かな作業を……色紙で装飾を作っていたり、教室内を飾りつけしていたり。いつもの明け星学園が、どんどんイベント仕様に変化していっていた。

 愛さんは生徒たちに、撮影の許可を貰ってから、顔を出したくないという人には顔を写さないように注意しつつ、丁寧に写真を撮っていた。……この人、撮影の時とか、仕事している時はこう……静かだと思うのだが……。


「さて、校内はこんなところか。やはり朝が早いと人も少ないな。……次は外へ行こう」

「……はい」


 愛さんがカメラのフィルムを確認しながらそう告げる。人が少ないことなど自明なことだと思うのだが……きっとその質問は野暮なのだろう。やめておく。

 愛さんに言われるがまま、私たちは外に出る。まだ日が昇っていないし、秋になると一気に気温が下がる。それに先程まで室内にいたのだ。こうして外に出て、風に打たれると……うん、寒い。思わず身を震わせた。


「ふぅ、外は冷えるな!! あまり時間は掛けないようにしよう!!」


 愛さんも腕をさすりながらそう叫ぶ。冷気も吹き飛ばすくらいの熱量だ。それが実際の温度として置換されないのが悲しいことである。

 愛さんは腕に掛けていたジャケットを羽織ると、改めてカメラを構える。私はそれを見つつ、外で準備している人なんているのだろうか、なんて考えていた。


 しかし歩いてみると、意外なことに外で活動している人は、いて。そしてその人たちは、見覚えのある人たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る