青年の正体

 彼は笑いながら腕を組んだ。


「で、さっきの話の続きだけど、小鳥遊言葉って知ってる? 俺今日さ、そいつと待ち合わせしてるんだよ。……まあ生徒会長だし、知らないわけないよな」


 1人で言って1人で完結している。そして彼はまた声を上げて笑った。


 ……なんだろう、この人……この、なんか良い感じに人の話を聞かないところとか、全体的な雰囲気と言うか、戦闘においては少し冷酷な面が見えるところとか……。

 ──言葉ちゃんに、似てる。


「……知ってます。というか、私は言葉ちゃんに頼まれてここに来たんです。彼女の代わりに、貴方に会いに来ました」

「え、あいつどうかしたのか?」

「……仕事に追われてて」

「あー、あいつ、いつも1人で抱えようとするからなぁ……いい加減、校内で俺以外の人間に信頼できるやつを探してほしいけど……」


 彼は何やらブツブツと呟いている。……どうやらこの人は、言葉ちゃんのことをとても良く知っているらしい。私と考えていることが、ほとんど同じだった。


 私がぼーっと彼を見つめていると、その視線に気づいたのか、彼は私の方を見る。……そして、ああ、と言った。


「そういえば自己紹介が遅れたな。俺は、青柳あおやなぎいずみ。君は?」

「あ……伊勢美灯子、です……」

「……あっ、君が!? 知ってる知ってる!! 転校生でしょ? 小鳥遊から話だけ聞いてるよ。明け星学園に転校生なんて珍しいな~、って思ってたし……一度会ってみたいと思ってたんだ。会えて嬉しい、よろしく」

「は、はぁ……どうも……」


 どうやら大迷惑なことに、私は学校外でもそれなりに有名人らしい。矢継ぎ早に言われたのちに握手を求められると、私はその手をおずおずと握った。顔は引きつっていたことだろう。

 そしてやはりこの人、言葉ちゃんと似たところを感じる。


「それで、伊勢美。巻き込んでごめん。こいつは、俺に恨みを持ってこうして襲ってきたと思うんだけど……君を巻き込んじゃって……」

「いえ……気にしないでください。……で、この子は何ですか」

「あ、ユキ。……この子は、明け星学園に住み着いてる猫だよ。……お前も巻き込んでごめんな~」


 私の腕から白猫を受け取ると、青髪の青年……泉さんは、笑いながら白猫を頬に寄せた。だが思いっきり引っかかれていた。だがやはり笑顔だった。

 ユキは手厳しいな~、なんて笑う泉さんを横目に、私はため息を吐く。


「それで……どうしますか? 彼女、今貴方に応対出来そうな様子じゃありませんけど」

「んー……それじゃ、中で待たせてもらおうかな。ついでに仕事も手伝うよ。2人でやった方が早いだろうし」


 ……2人がどういう関係かは知らないが……言葉ちゃんは果たして、素直にこの人を頼るのだろうか……。


 すると彼は再び私の思考を読んだように、大丈夫だよ。と言って笑った。



「俺、明け星学園の元生徒会長……それも、小鳥遊の前任だから」



「……え」


 まさかの発言が彼の口から飛び出し、私は思わず固まってしまう。

 そんな様を面白いと思ったのか、彼は再びあははっ、と笑った。


「それじゃ、行こうか」


 そう言って彼は歩き出す。中に入っていく様は、自然そのものだった。この地を……踏み慣れているのだろう。


 私は驚いて、しばらくその場に立ち尽くしてしまったが……すぐに気を取り直し、どんどん先へ進んでしまう泉さんの背中を追いかけるのだった。







オマケ


 追いかけて、泉さんの横に並ぶ……というまさにその瞬間に、彼の懐から何かが落ちた。それは……1冊の本、というか、教科書。先程ボウガンを防ぐのに使われていたやつだ。真ん中に大きな穴が開いている。……。

 ……この教科書、やはり見覚えがある。拾ってまじまじと眺めた私は、思った。


「あ。ありがとう、拾ってくれて。……まあ俺のじゃないんだけどね」

「俺のじゃない……?」

「うん、ここに来る途中で拾ったんだ。……たぶん誰かの落し物だと思うんだけど……咄嗟とはいえ、防御に使っちゃって……悪かったなぁ……」


 彼がそうぼやくのを他所に、私は裏表紙の裏を捲っていた。するとそこには……。


「……あの、これ、私の教科書です……」

「……えっ」


 そこには私の字で、「伊勢美灯子」と書かれている。あまり表紙に名前を書くという文化が好きではないので、私はいつもこうして裏表紙の更に裏に書いているのだ。


 ……って、それはともかく。


 今日使うはずだった、私が忘れたと思っていた教科書。まさか落としていたとは。そしてこんな無残な姿で帰ってくるとは。


「……」

「えっ、あ、えーっと、マジでごめん!!!! 悪かった!!!!」

「……いえ、これがあったからボウガンを防げたんでしょうし……」

「あ、うん、それは本当に助かった……じゃ、なくて!! 弁償します、本当に。これ何円?」

「確か……学校で買ったから割引で3,000円くらいでしたけど、普通に買うとなると6,000円くらいしたような……」

「分厚いもんね!!!! あー……思わぬ出費っ……!!!!」


 地面に膝を付いて項垂れる泉さん。経費で払おうかな、と聞こえた気がしたので、自分で出してください、と返しておく。ハイ、というか細い返事が響いた。





【第15話 終】



第15話あとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330663249013048

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