不幸なことに

「なっ……」


 リーダー格の男は目の前の光景に震え、小さく声を絞り出す。……そして慌てたように男が手を前に出そうとしたその瞬間……男の真横を、銃弾が通り抜けた。


 何てことはない。青髪の青年が落とされた拳銃を拾い上げ、それを使っただけだ。

 彼は無表情のまま、更に2発発砲。だがそのどちらも威嚇にすぎず、男の真横や足元……当たるスレスレを狙われていた。


「さて、どうする? 降参する? もうお前に勝ち目はないよ」

「くっ……」


 真っ直ぐに銃口が向けられ、男は冷や汗を流す。そして、ゆっくりと口を開き……。


「……は、はははっ、ははははっ!!!!」


 ……大声で、笑い出した。

 その余裕綽々っぷりに、私は思わず眉をひそめる。銃口を前に、どうしてそうも笑っていられるのか。いや……なんとなく予想は出来るが。


「残念だったなぁ!!!! その拳銃には6発しか銃弾が入ってない!! お前の持つそれは……もう弾切れだ!!!!」

「……」


 彼は黙りこくる。その表情は、依然として真顔で。やはりどこまでも慌てない。

 リーダー格の男は、くくくと笑った。確実に勝ちを確信している。目の前のこの人を倒せるということを。

 男は今度こそ手を前に突き出す。彼は拳銃での脅しが通用しないと分かると、小さくため息を吐いてから拳銃をその場に捨てた。


「……お前の異能力は、物体の大きさの操作。まあ俺とお前くらいの距離なら、異能力を届かせることは可能だろうね」

「おっと……丁寧な解説をどうも。分かってんなら、そこから動くなよ?」


 そこで彼の瞳が、何故か私の方を向いた。一瞬だけだが目が合い、私は困惑する。

 ……今の説明、もしかして、私にしてくれたのだろうか。


「自分が死ぬって分かってて、はいそうですか……って止まったままでいると思う?」


 すぐに視線を前に戻した彼は、はっきりとそう返した。

 そしてすぐにその場から飛び上がる。彼が目の前から消えたことに男は大きく舌打ちをしたが……そこで私と目が合った。すると彼の口角が吊り上がる。


 あー、私、狙われてるなぁ、と呑気に考えていると。


「……予言してあげる。

「あ!?」


 再び男は苛ついたように声をあげる。だがすぐに視線を私の方に戻すと、男の体は微かに力み……。


 キュイーン、という甲高い音がどこか遠くで聞こえたのと、私が一歩だけ下がるのは、同時だった。


 すると私のすぐ目の前で、空気が一気に圧縮されるのが分かった。私が一歩下がらなければ、ちょうど心臓が捻り潰されていただろう……この白猫もどうなったか分からない。だが危うく死にかけたというのに、白猫は私の腕の中で呑気に欠伸をしていた。肝が据わっている。だいぶ。


 そして青髪の青年は綺麗に着地する。男の仲間を縛っていた武器を一瞬で回収すると……その棒の先に、銃口があるのが見えた。それで殺すつもりなのだろうか、と、私が止める暇もなく。



 ダンッ!!!!



 その銃口から、激しい音が響いた。



 私はリーダー格の男に目をやるが……男の脳天にも、胸部にも、穴が開いている様子は見受けられない。……ただ、頭を抑え、苦しそうに身をよじっていた。……よく分からないが、無事らしい。


「大丈夫。殺す気はないよ。それは過度すぎる正当防衛だし……俺に人を殺す根性ないし」


 私の思考を読んだかのようにそう答えてくれる青髪の青年。その傍ら、懐からロープを出すと、5人全員をまとめて明け星学園の校門に縛り付けた。通行人がギョッとしている。


「……じゃあ、その武器は?」

「これはね、異能力者だけに効く脳波を送る銃。すごいよ、何も考えられなくなるし、動けなくなる。でも後遺症とかの心配はゼロ。普段は棒状でコンパクトに持ち歩けるけど、使う時はワイヤーで好きな長さに変えられるから射程距離も自由。……使。だから俺もどういう仕組みでこうなってるか、分からないけど」

「……????」


 一気に説明され、私の脳は理解を拒んだ。それに彼も気が付いたのだろう。ごめん、一気に言って、と謝られた。


「まあ君にはどうでもいいことだし。理解しなくていいよ」

「……はい。もう忘れました」

「はっや」


 あははっ、と彼は朗らかに笑った。……先程まで、戦っている時はとても冷たい表情をしていたというのに……終わった瞬間、こうだ。その顔のデフォルトは、どうやら笑顔であるらしい。

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