第42話「任務④:嗅覚」
多勢に無勢
私──
男性が大好きで女性を嫌悪する彼女は、自分に近寄る女性たちを、異能で操る男性に殺させている。だから凶悪異能犯罪者だと言われているようだ。
ここ最近彼女は、元「湖畔隊」の男性たちを攫っているらしい。仲間を取り戻すという意味でも、こうして早急に出向いたわけだけれど……。
なんとか辿り着いた私とカーラ・パレットさんを待ち受けていたのは、芳乃美香本人と……操られた男性たち。そして彼女は彼らに命令した。──私たちを殺すように、と。
まずは彼らをどうにかしないといけない。そんな思いで私たちは、同時に地面を蹴った。
一方、
しかしそこで聞かされたのは、自分以外のメンバーが最重要任務へ向かったということ。知ってしまった。自分にだけは、何も聞かされなかった。黙ってメンバーから外された。その、事実。
私は、信じてもらえていない。
言葉は外へと向かう。その瞳に、全てを飲み込む暗闇を渦巻かせて。
──────────
「ぐッ、う、ッ……!!!!」
私は日本刀を振るい、向かってきた攻撃を弾き飛ばす。しかしすぐに、別の場所から攻撃が。異能力なのだろう。とある男性の手からリボンが伸び、日本刀に巻き付いた。しっかり絡め取られ、日本刀は動かなくなる。
私は引きちぎろうとしたが、上手くいかない。そう試行錯誤している間にも、また別所から攻撃が飛んでくる。こちらは異能力がないのか、シンプルに拳だった。手を振り上げられ、私はそれを見ている。
しかしすぐに「A→Z」を用いる。日本刀に巻き付いたリボンを消すと、引きちぎろうとした勢いそのままに、日本刀を振るう。拳を振り上げていた男性に、日本刀の
だがそれに満足している暇はない。すぐに次の攻撃が来る。今度は渦を生み出す異能力者なのか、生み出した渦をこちらに投げて来る。私はそれを避けたり、斬ったり……そうして対応していく。
ふと、背後で微かな悲鳴が響き渡った。意識は前に保ちつつも、そちらを振り返る。……そこでは私が避けた渦に呑まれ、弾き飛ばされている人々が。
……仲間に当たるのもお構いなし、というわけか……。
いや、仲間ではないのだろう。彼らはあくまで、芳乃美香の下僕で。彼女に操られ、ただ私たちを殺すため、行動している。
そこでふと、人混みの中にカーラさんの姿を見つけた。彼女は何度も髪色を変え、8つの異能を駆使し、なんとか対応しているらしい。しかしその顔には疲労が窺えて……。
私は彼女の背後に飛び込む。そして、彼女に切りかかろうとしていた男を日本刀で殴り飛ばした。
「灯子……!!」
「……ヤバいですね、これ……」
一瞬瞳を輝かせたカーラさんだったが、すぐに視線を前に戻す。私たちは背中合わせになった。
私たちを取り囲む、人、人、人。最初よりは確かに相手をする数が減っているはずだが、終わりは見えない。1人1人の実力は、正直あまりないと言ってもいい。しかしやはりそこは多勢に無勢。数に押されている、という表現が正しいだろう。
「……カーラさん、2人で一気に打ち払いましょう」
「分かった、です。……アレ、だね、です」
私たちは一瞬視線を交差し、頷く。カーラさんは虹色の瞳を煌めかせ、大きく絵筆を振るった。
「カーラの虹は、希望の色!! ……貴方に、素敵な転機を!!!!」
そしてカーラさんの虹色の絵の具は、私に降り注ぐ。絵の具を浴びた私は、体の芯から熱が、力が沸き上がってくるような感覚がし……。
次に、日本刀が小さく震える。私のイメージで、その姿を変えようとしているのが分かる。……思考に任せ、私は日本刀を握る手に、ありったけの力を込めて。
それから、思いっきり地面を蹴った。大きく飛び上がった私は、日本刀を構える。
こうして俯瞰すると、やはり多くの人がいるのが分かる。芳乃美香がこちらを見上げているのも、よく見えた。
──これらの人全てを、薙ぎ払うだけの、力を。
するとそんな私の声に応えるように、日本刀の刀身が──伸びる。逆に私が振り回されぬよう、気を付けながら。
殺傷力は消して。ただぶつけ、弾くのみ。こちらは一緒に犯罪者になる気など、更々ないのだ。
私は日本刀を振るう。……刀身の伸びた日本刀はしっかりと彼らを捕らえ、薙ぎ払う。全員を払うことは出来なかったが……今の一撃で、だいぶ数は減らせただろう。
そして私が薙ぎ払ったことにより上がった煙幕に隠れ、カーラさんが芳乃美香に接近する。……その髪は、紫。芳乃美香に「魅了」の効力がある絵の具を被せ、一気に制圧しようと思ったが……。
「わぁっ!?」
接近がバレたらしく、カーラさんの悲鳴が聞こえる。私は着地点で構えていた男たちを振り払いつつ無事に着地すると同時、そちらを見て。
……吹き飛ばされたカーラさんを受け止めた。
いや、受け止められてはいない。勢いを殺せず、私もそのまま吹き飛ばされてしまったからだ。威力が凄まじいのと、単純に私が疲れているせいだろう。ゴロゴロと地面を転がって壁に衝突し、ようやく停止する。口からは、情けない悲鳴が漏れた。
「……ぃ、った……」
「と、灯子……ごめん、です」
「……問題、あり、ません……」
涙交じりの声で謝られ、私はそれだけ言う。どうやら、私がクッションになったお陰で、カーラさんに怪我はないらしい。それだけで十分だった。
地面に手を付き、震える足で立ち上がる。こちらが負傷したのもお構いなしに近づいてくる男たちを睨みつけながら。
生憎、傷が痛もうと休んでいる暇は、ないのだ。
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