独りぼっちなんかじゃない

 泉さんと忍野さんと別れた後の僕は1人、夜道を歩いていた。そんな僕を見守るのは、頭上にある電灯と、空に浮かぶ月と星だけ。


 でも、それだけじゃない。寂しく思う必要なんてない。


 だって僕はこんなにも、人に愛されている。大事に思ってもらっている。無事を祈られている。……沢山の思いが、僕を抱きしめ、包んでいる。

 だから、何も怖がる必要なんてない。寂しく思う必要もない。


 今、誰も傍にいないとしても。……心は、皆の傍にある。だから僕は、独りぼっちなんかじゃない。


 ……ののかも、こう思ってくれていたのかな、なんて考えた。面会時間外、病院に1人だった彼女は、いつも空の星を眺めていた。星は、独りぼっちの自分に寄り添ってくれる存在だと──そう、言っていた。

 僕と会った後は、僕のことも思い出してくれたのかな。……なんて、もう確かめる術なんてないんだけど。


 それでも、きっとそうだったのかな、なんて思いを飛ばす。僕に出来るのは……それだけだから。


 そうやって僕は思考に浸っていたが、今は置いておかないと、と気を取り直す。もちろん、思い出に浸かるのもいいけど……今は、やるべきことをやらなくちゃ。

 海中要塞で得た情報は、全てスマホにメモした。近くの公園に入り、その中にあるベンチに腰掛け情報を見ながら、対策を立てることにする。


 ……今更だけど、泉さんたちがあんなにあっさり許してくれたなら、わざわざこっそり忍び込んだりしなくても良かったかもな……なんて思ったりもした。いやまあ、だって、たぶん皆、言葉ちゃんから僕の話は聞いてるだろうし……そうなると、僕がSmileに復讐しようとしている、ということにはすぐに思い至るだろう。まあ、今は違うんだけど。


 ……言葉ちゃん、か。


 僕は思い出す。言葉ちゃんに言われるがまま、僕は僕の話を彼女にした。──全て聞き終わった後の、彼女の表情。

 とても、傷ついたような顔をしていた。


 ……さっきまでは気にしてなかったけど……言葉ちゃん、大丈夫だろうか。いや、傷つけた僕が心配したところで、余計なお世話かもしれないけど。

 罪悪感が胸に広がっていく。……でも今は、目の前のことをやらないといけない。だから、申し訳ないけど……言葉ちゃんのことは、その後で。


 彼女から話を、聞こう。彼女が、僕にそうしてくれたように。


 もう1つの決心も済ませたところで、ふとスマホに通知が来る。確認すると、泉さんから。内容を見るとそこには……地図の画像が添付されていた。地図には、1つの赤い点が付けられている。……メッセージ文を読むと、どうやらこれはSmileの現在位置であるらしい。忍野さんが異能力で、見つけてくれたと。……忍野さんも、Smileに会ったことがあったのか。

 どうやって探そうかと思っていたが、わざわざ探す手間が省けて良かった。ありがとうございます、と返信を打ち、僕は顔を上げる。


 すぅ、息を吸って、はぁ、吐いて。


 手も足も、小刻みに揺れているのが分かる。それはそうだ。だって……こんなにも、怖い。

 僕はあんなに近くで、あいつの恐ろしさを……全身で感じた。その恐怖が、まだ体に生々しく残っている。そう、感じる。


 あの日から僕は、戦い方を知った、強くなった。……でも、果たして本当に、敵うのだろうか? 何も出来なくて、地べたを這うことになるんじゃないか? どうしても、そう思ってしまう。

 僕は震える両手で、震える脚を思いっきり叩く。気合を入れるために。


 ……出来ないかもしれない。でも、やらなくちゃ。


 この夜を、超えるために。

 過去を、超えるために。

 皆のところへ、帰るために。

 ……未来を、明日を、生きるために。


 僕は戦う。


 そこで再び、スマホが震える。そこには泉さんから一言、ちゃんと帰って来いよ。とあって。……僕は微笑む。あえて返信はせず、スカートのポケットにスマホをしまった。


 行こう。


 その思いで僕は立ち上がり、そして──頭頂部でまとめられたお団子を、勢い良く、解いた。

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