招集の理由、隊長代理

 海中要塞に戻ると、私たちが一緒に来たことに驚いたのか、言葉ちゃんが目を見開く。しかしすぐに真顔に戻った。


「付いて来て。事情説明と、作戦会議をする」


 私とカーラさんは一瞬視線を交差させたが、すぐに気を取り直し、先導する言葉ちゃんの背中を追った。


 そして辿り着いたのは、会議室の内の1つで。……その中には、椅子の上で青い顔をして蹲る大智さんと……部屋の隅で不満げなオーラを隠しもせず、腕を組んで立っている……忍野さんがいた。


 忍野さんは私たちが入って来たのを見ると、壁から背中を離して一言、遅い、と告げた。


「……すみません。で、何ですか」


 謝罪もそこそこに、私は話の先を促す。すると忍野さんは相変わらず不機嫌そうに……口を開いた。



「端的に言うぞ。

 ……あの脳内お花畑浮かれ野郎が、連れ去られた」



 脳内お花畑浮かれ野郎。そう言われて初めて私は気づく。……この部屋に、泉さんの姿がないことに。


「……連れ去られた、とは……」

「まあ……あいつは腐っても警察、そして1つの組織のトップだ。もちろん秘匿情報も有しているし、面倒なやつらを取り締まる仕事ばっかり渡されるから、当然恨みも買いやすい。……情報か怨恨。どっちかだろうな」


 そう告げる忍野さんの口調は、淡々としている。この状況に、心配などしていない。……ただその顔には、「面倒くさい」とだけ書かれている。

 彼は深々とため息を吐くと、どうする? と尋ねた。


「助けに行くか?」


 彼の視線が、1人ずつに渡される。大智さん、言葉ちゃん、カーラさん。……私。

 1人1人の意思を、確かめるように。


「そんなの、愚問だよ。行くに決まってるでしょ!? ……皆が行かないって言っても、僕は行くからね」


 まずは言葉ちゃんが、熱のこもった言葉で答える。まあ、予想通りだ。


 あとは私たち3人、だけど……。


「……ぇ、ぇっとぉ……その、僕も……行きますッ」


 次に答えたのは、大智さんだった。つっかえつつも、その瞳は、強い光が宿っていた。

 前、変わりたいと言っていたあの時と同じ……瞳。


「あ、はいはーい。オレも行く~。面白そうだし!」


 そしてカーラさんもあっさり、楽しそうな口調で答え。


 私もゆっくり、口を開いた。


「……私も、行きます」


 参加表明に、余計な言葉はいらない。


 ふと、横を見る。……言葉ちゃんは私たち3人を見渡し、微かに目を見開いていた。私たちが参加すると言ったのが信じられない、と言わんばかりに。

 ……まあ、私はともかく、2人に関しては、少し分かる。


「……決まりだな」


 忍野さんはそう言うと、再び深々とため息を吐く。やはりその顔は、どこまでも面倒くさそうで。


「だったら、俺が代理で司令塔を務める。まあ……あいつも普段マシな司令塔なんてしてないだろうしな、あくまで形だ」

「うげ、あんたが?」

「一応、あいつの直属の部下なんだよ俺は。だったらこの中で今一番偉いのは、俺だろ」


 文句を言う言葉ちゃんを彼は一瞥し、滅茶苦茶な理論でねじ伏せる。

 そして視線を前に戻すと、彼は続けた。


「お前らで、あの野郎がどこにいるか突き止めろ。その後は、俺がどうにかする」

「……信じていいんですか」

「……あいつが死ぬと、俺も死ぬし。面倒だが、給料分はきちんと働いてやるよ」


 私が尋ねると、忍野さんはやはり面倒そうに答える。……だが、これに関しては信じても良さそうだと、そう判断できた。


 忍野さんは再び私たち1人1人を見渡し、全員が納得したことを確認したのか、一度目を伏せ。


「──『湖畔隊』隊員に、隊長の代理で俺から命じる」


 次に開いた、彼のその瞳は……陰のように、静かにそこに鎮座していた。





「『湖畔隊』隊長を、30探し出せ」





【第25話 終 第26話に続く】





第25話あとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16818023211926442519

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