親睦を深めるヒント

 一通りフリを教え、2人で音楽に合わせ、体操を行っていく。終わる頃には、私の目も意識も冴えわたっていた。


「……日本人って、皆毎朝こんなことしてるの……?」

「全員……ではないと思いますけど……ちなみに、2番もありますよ、これ」

「そう……知らなかったなぁ」


 カーラさんは慣れない動きに必要以上に疲れてしまったらしい。その場に座り込み、その口からは小さな悲鳴が漏れ出していた。


 私はいつもやっていることなので、特に何もない。まあ、誰かとやるのは初めてだったが。……小学校や中学校の体育祭の時に全校生徒でやったような気もするが、あれはノーカンで。


 ループしているせいでいつまでも歌い続けるスマホを拾い、私は音楽を止める。……そして、メッセージが届いていることに気づいた。通知音を切っているから、気づかなかった。……。


「……どうしたのー?」


 私の様子を見て、カーラさんが大の字になりながら尋ねて来る。私は彼女の方に視線を向け……。


「……言葉ちゃんから……至急、戻ってこい。と……」

「え? ……あ、本当だ、オレの方にも来てる」


 カーラさんもスマホを取り出し、そう言う。どうやら言葉ちゃんは、全員に……というか、海中要塞にいなかった私たちどちらにも伝えていたらしい。まあ、私とカーラさんが一緒に居るだなんて思わないよな……。


「何だろ……まあいいか、行こっ」

「あ……はい」


 体を起こし、軽く服に付いた砂埃を払ってから、彼女は私にそう言った。私は短く返事をし、歩き出したその後ろ姿に……。


「……1つ、聞いてもいいですか」


 そう、声を掛ける。

 彼女は私を振り返り、朗らかに笑った。


「いいよ、何?」


 その友好的な態度に、少なからず緊張が解ける。私は小さく息を吐いてから、言った。


「……まだ泉さんのことを、危険視していますか?」


 私のその問いかけに、カーラさんは眉をひそめる。そして腕を組むと、んー、とか、あー、とか呻いた。……そして本人の中で結論が出たのか、顔を上げて私の方を見る。


「……こう言うと、他の人格にどやされそうだけど……オレは別に、そうでもないよ。めっちゃ面白い人だと思ってるし」

「……そうなんですか」

「うん。……ま、気持ちは分からないでもないけどなー。カーラが大事だから、危険そうなものは排除する。カーラを大事に思う気持ちは、皆一緒だ」

「……」


 ……〝カーラ〟が大事……。



『……ッ、カーラが少しでも危険な目に遭うかもしれないのなら、私が今ここで……ブッ殺す!!!!』

『……あ、でも、カーラだけが過剰に危険になるようにする……とかいう作戦はやめなさいよ。流石にそれは、うちも黙っておかないから』

『……このままじゃ、カーラも危険だからよ』



 この人格たちは、まるでカーラを囲っているようだ。



 そしてこの人格たちは、それぞれの人格を「色」で呼ぶ。だが、カーラだけはちゃんと名前で……。


 ……カーラ・パレットには、まだまだ私の知らないことが、沢山ありそうだ。


「ほら、あの隊長専属の諜報員だとか言ってる男……アイツのせいで、皆余計に隊長に対する疑いが強まってるみたい」

「……まあ、異能犯罪者ですしね……しかも、私たちに隠していたわけですし……」

「そーそー。ま、オレ的には別にどうでもいいよ。いざとなりゃ隊長も諜報員とかいう男も、まとめてブッ殺せばいいだけなんだからさぁ」


 笑顔で物騒なことを言い始めたカーラさん……オレンジに、私は微かに息を呑む。

 ……言い方が悪いが、こう友好的でも、やはりカーラさんの人格の1つ……ということか。


「……でも皆、カーラを守りたくて必死なだけ。逆に言えば、隊長が安全だってわかりゃいンだよ。……オレらだって、好きで隊長を疑ってるわけでも、いざとなれば殺したいと思ってるわけじゃない。……不可抗力だからそうしてるだけだ」

「……」

「オレだって、仲良く出来るならそれが一番だしな~。……あっ、アンタらとも仲良くしたいと思ってるよ! だって、楽しそうだし」

「……そうですか」


 矢継ぎ早で色々言われ、私はそれだけしか返せなかった。ただ……まあ、有益な情報はいくつも得られたと思う。


 ……泉さんが危険ではないと分かれば、カーラさんは手を引く。そして同時に、大智さんも手を引くのだと。

 ……それが出来れば、私たちの間にも、きっとわだかまりは限りなく消えるのだろう。


 今世紀最大の凶悪犯罪者だと言われている、通称『五感』を捕まえること。

 私たちが強くなること。

 そして同時に、仲を深めること。


 ……もう残り2ヵ月になりつつある。きっとそろそろ、本格的に作戦開始に動き出すのだろう。


 やることは、目の前に山積みだ。


「……質問はそれだけか? だったら、いこーぜ。じゃないと、あの恐い女に怒られそう」

「……言葉ちゃんのことですか?」

「あ、そうそう、言葉」

「……それ、絶対本人の前で言わない方が良いですよ」


 無益な血が流れかねないので。

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