追いかけなければ

 すると墓前先輩が私たちの間に立ち、紐を解き始めてくれる。私がじっとそれを見つめていると、彼は私の視線に気づき、そして口を開いた。


「……生徒会長は、幽霊とかが苦手なんだよ。だから俺のことも嫌って、会いたがらない」

「べ、べべべ別にっ、苦手じゃねーし!!!!」

「……なるほど」


 その反応を見て、私は納得をする。墓前先輩は言葉ちゃんのことが──正確に言うと言葉ちゃんの守護霊のことが怖くて、言葉ちゃんは霊的なものが見える墓前先輩のことが怖い。だからお互い近づきたがらないと……。


「だっ、大体幽霊とかそういうのは全て結局プラズマなんだから……だからそう科学的に言えるものを怖がる必要もないわけで……」

「……腹黒生徒会長、それ、怖さを誤魔化してるようにしてるようにしか思えないんですけど」

「だから怖くねーっつってんだろ!!!!」


 もうこうしていると、幼稚園児とそれをなだめているお兄さんだ。しかし墓前先輩は、全く言葉ちゃんの方を見ようとしない。恐らく守護霊が怖いからだろう。……何と言うか……変な2人だ……。


「……というか腹黒生徒会長、紐切ってやってくださいよ。伊勢美が動けない」

「……あ、すみません……外れないよう、片結びにしたので……」

「……いや、別に謝ることではないだろ」


 墓前先輩が呆れたように呟き、分かってるよ、と言葉ちゃんが口を尖らせて、そして異能力を使う。文字はぐぐぐ、と紐にめり込むと、やがてぷつ、と紐を切った。お陰で足が自由になる。


「……はあ、やっと自由……」

「そんなに僕と繋がってるの苦痛だった!?」

「……優勝取ってくれたのには感謝しますけど、すごい足揺さぶられたので……」

「あれは不可抗力!! ……」


 言い合っていると、突然、言葉ちゃんの視線が上に向けられる。そして大きく、目が見開かれた。

 その視線の先を追う前に……言葉ちゃんはバッ、と、走り出してしまう。


「言葉ちゃん……!?」


 それを追って私も走り出そうとした、が、実行委員の人に止められてしまった。どうやら私たちは優勝したため、軽く前で祝われないといけないらしい。……前にわざわざ目立ちに行くなんて、それも嫌だけど、それよりもっと……。


 先程言葉ちゃんが見上げていた方に視線をやる。そこには何もない。でも……嫌な予感がする。


 ここで追いかけないと、私はきっと、後悔する。


 と思っていると、私と実行委員の人の間に、誰かが割って入ってくれる。見上げると、それは墓前先輩だった。次いで、雷電先輩もそれに並ぶ。


「……え、あの……?」

「実行委員さん~、俺たちだって大健闘したんだから、この子の代わりに前立ってもいいよね~?」

「はい……!?」


 雷電先輩がへらへらしながらそんなことを言い、実行委員の人は困惑したような様子を見せる。それをぼんやり見ていると、墓前先輩が微かに私を振り返った。


「……何してるんだ、伊勢美」

「え? ……?」

「腹黒生徒会長を追うんだろ、早く行け。ここは俺と閃に任せろ」

「……!」


 私は小さく目を見開く。気づいてくれたのか、そのことに驚いて。


「……ありがとうございます」


 礼を述べると、私は言葉ちゃんの去った方向へ駆け出す。人混みをもろともせず、必死に前だけを見据えて。

 ……たぶん、私の予感が正しければ……。

 言葉ちゃんはあの時、聖先輩を見つけた。そして今、聖先輩の所へ向かっている。





 一方、私を逃がしてしまった墓前先輩と雷電先輩は、私たちの代わりに本当に前に立ったらしい。……その後実行委員に怒られる、というオマケ付きだが。


「はー、怒られた怒られた」

「……だな」

「にしても意外だったな~、お前が率先して人を庇うなんて~。……まさかあの子に惚れてるとか」

「んなわけないだろこの恋愛脳が」

「うっわ食い気味。……じゃああれ? 初めての後輩が可愛いとか……お前俺以外に友達いないし、誰も寄り付かないもんな~」

「……そんなんじゃない」

「あれ図星????」

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