二人三脚レースの行方
転んだ時に擦ったのか、頬と肘と膝がジンジン痛む。しかしそんな怪我より先に、早く起き上がらなければ。……この間に、一体どれだけの差が……。
と、私が思っていると。
「よっと」
「……?? ……????」
恐ろしいほど軽い掛け声とともに、私の体が、宙に浮いていた。いつもより若干視界が高い。……何だ、今、何が起こっているんだ、これは……。
「とーこちゃん、もう限界でしょ? ……だから、このまま走るね!!」
「え、」
私が何かを言い返す隙も無かった。言葉ちゃんはそのまま……勢い良く、走り出す。
文字通り風を切っていた。とても早かった。片足は言葉ちゃんの片足に繋がれているので、恐ろしいほど揺さぶられた。明日の私の右足は死んでいるだろう。可哀想に。
流石生徒会長と言うべきか、かなり前を走っていたはずの墓前先輩・雷電先輩ペアのすぐ後ろまで辿り着いた。どこから来るんだこの体力……!!
「ふはっ、このままあっさり俺たちが1位を頂いちゃうと思いましたよ~会長」
「うへ~、余裕ムカつく!! 絶対僕たちが……!! 優勝貰うんだからっ!!」
「……何か溌剌伊勢美が死んでる気がするんだが……大丈夫なのか……?」
「大丈夫じゃないです……」
もう私は無駄な抵抗をしない方がこの場が平和に収まると理解した。私は置物……と自分に言い聞かせる。ただジッとしている置物だ……。
「ま、1位は俺たちのものっすよ、会長、灯子ちゃん!!」
そう言って雷電先輩はニヤリと笑う。そして手を真上にかざすと……。
ドンッ!! と、目の前に雷が落ちた。
ビリビリと、地面が揺れる。目の前の自然の驚異に気圧され、一瞬息を呑む。
「大丈夫、僕が守る」
言葉ちゃんのその発言に、迷いは無かった。何でこの人はこう……恥ずかしいセリフを、こう真っ直ぐ、言えてしまうのだろう。何だかこっちが恥ずかしくなってきてしまった。顔が熱い。
そしてその言葉の通り、言葉ちゃんは私のことを守ってくれた。雷の来る方向、落下地点を見切り、的確に避けていく。そのまま、墓前先輩と雷電先輩の横に並び……。
「会長って本当に人間ですか!?」
「あ!? どういう意味だオラ!!」
「はあ……腹黒生徒会長」
「何だよ」
妨害を全てもろともされなかった雷電先輩は、言葉ちゃんのことをドン引きしたような目で見つめる。その横で、墓前先輩が声を掛けた。
そしてゆっくり微笑み。
「腹黒生徒会長の背中に、守護霊がべったりと憑いてますよ」
「……」
「それで生徒会長のことをすごく応援してて……」
「……い」
例の、憑き物が見える、というあれだろう。墓前先輩が淡々とした口調で説明していく。すると言葉ちゃんは黙りこくってしまい……。
い? と私が首を傾げていると。
「……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 僕そういうの苦手ぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……先程よりももっと早く、駆け出して行った。
お陰で私は激しく体を揺さぶられる。うっ……お昼ご飯が出そう……。
そうは思ったものの、言葉ちゃんはゴールテープを切るときちんと止まり、沢山の人の前で痴態を晒すことだけは免れた。そんなことになったら本当に次から学校に行けない。助かった……。
一気にゴールをした言葉ちゃんに、事情を知らない観客たちは大歓喜をあげて喜んでいる。言葉ちゃんは弱々しく笑ってから……地面にがっくしと、膝と手を付いた。
「と……ととととーこちゃん……僕の背中に……その、憑いてる……?」
「……いえ、私……霊感とかないので……」
そう答えていると、続いて墓前先輩と雷電先輩もゴール。手早く紐を解くと、すぐに私たちの所に寄った。
「会長、あそこからもっと早く走れると思わなかったっすよ~」
「……ビビッて足止まるかと思ったけど……逆効果だったか。まあ、負けは負けだ。悪かったな、
「ま、楽しかったからいいよ!!」
「……しりょー……」
仲睦まじげに話す2人を前に、言葉ちゃんはゆらりと立ち上がる。そして、墓前先輩のことを睨みつけ……。
「……ぼ、ぼぼぼ僕の背中に……ゆっ、ユーレーいるなんて戯言をよくも……」
「事実ですが。それに幽霊ではなく守護霊です。……ほら、今も後ろで勝利を祝って……」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! しりょー嫌いっっっっっっ!!!!」
「うっさ……」
まだ紐を解いていないため、すぐ真横にいる私は、そう言って耳を抑えた。この人間拡声器がよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます