生徒会長の保証

「!!」


 観客たちから、驚愕の声が上がる。当たり前だ。私が目の前の地面に突き刺さった棒引きの棒を……

 そして次の瞬間、真後ろに全く同じものを出す。先程消したばかりのものだから、同じものを出すのは容易いことだ。ついでに同じように、地面にぶっ刺しておいた。丁度、後ろのペアの行く手を阻むように。

 しかしそれも恐らく読まれていたのだろう。ギリギリだが、避けられる。惜しかった……。


「次!!」

「っ」


 言葉ちゃんの鋭い声に、ハッとなる。そして次に現れた玉入れようのカゴを消した。そしてまた後ろに再構成する。……走りながらだと、ちょっと疲れるな……。

 その時後ろから、小さく舌打ちが聞こえた。私たちがなかなかレースから脱落しないことに、苛立ちを覚えたのだろう。すると次に、目の前に現れたのは。


「……えっ?」



 とある、女子生徒だった。



 こちらを見つめ、キョトンとしている。今自分に何が起きているのか、分かっていないようだ。それは私も同じだったが、すぐに理解する。……物質移転系の生徒が、と。


「──ッ!!」


 私は先程と同様、かざしていた手を慌てて引っ込める。駄目だ。私の異能力は、分解と構成。確かに、同じものを作ることは出来る。でも──全く同じもの、では、ないのだ。


 人に使えば。

 私は一度、人を殺す。


 でも何もしなければ、この勢いのまま、ぶつかる──!!


「──灯子ちゃん!!」

「っ」


 言葉ちゃんが叫ぶ。するとぶつかる寸前、足元に文字が。私はそれを踏むと、ぐっ、と、膝に力を込めて。


 言葉ちゃんと共に、一気に、跳躍。


 思ったより高く飛んでしまい、観客の姿が全て、有象無象に見えた。

 落下するまでの間、言葉ちゃんはその手に文字を纏わせる。そしてその大量の文字を一気に、トラックに立ち尽くす女子生徒に向け、投げた。


「Stardust」。


 それはまさに、流れ星。

 その文字たちは女子生徒を攻撃するのではなく、柔らかなベッドの様になって、女子生徒をトラックの外まで運ぶ。そして彼女に体育祭の運営らしき生徒が駆け寄ったのを見て、私たちはホッ、と息を吐いた。


 ──だがまだ、勝負が終わったわけじゃない。


『えー、今のは生徒を危険に晒す行為であるので、女子生徒を飛ばしたそこのペアは、失格!! ……というわけで、残すところ、4組となりました!!』


 その放送を聞き流しつつ、私たちは再び走り出していた。順位は入れ替わり、私たちは3位となっている。先程足止めしたペアははるか遠くにいるけど、相変わらず1位の墓前先輩・雷電先輩ペアは、遠ざかる一方だ。


「……ッ」

「とーこちゃん、大丈夫……?」

「……正直……ッ、きついです……」


 私は片手で顎を伝う汗を拭いながら答える。かなりきつい。もうとっくに、体力は限界を越している。何とか、気力だけで走っている感じだ。

 ……それに……。

 先程、女子生徒を目の前にしたことを思い出す。もし、あそこで、私の咄嗟な判断が間に合わなかったら。言葉ちゃんが、文字ジャンプ台を設置してくれていなかったら……。


 ……考えただけで、ゾッとする。

 汗を拭う手が、震える。

 もう、……。


「灯子ちゃん」


 呼ばれ、ハッ、となる。顔を上げると、それと同時、腰を強く抱かれた。


「大丈夫。僕がいる」


 だから大丈夫。

 何が大丈夫なのか。何を指しているのか。……それは分からないが。


「……はい」


 そうか、大丈夫なのか。と思う。何だか妙に、納得してしまった。

 何とか息を吸って、足を、手を動かす。隣に確かに温もりがある。暑いくらいだ。それに、安心してしまいながら。

 2位と並んだ。そのまま一気に、追い抜こうとして……。


「……あっ!!」


 不意に私の足から、力が抜ける。そして私は……地面に、倒れた。


「ちょっ……とーこちゃっ……」


 もちろんそれに伴って、言葉ちゃんは前につんのめる。そのまま私と共に、倒れ……。



 ……まあ。

 



「……!」


 言葉ちゃんの文字が、前を走る選手の足首を結ぶ紐を、少しだけこちらに向けて引く。私は何とか手を伸ばして、指先に、紐が一瞬、触れ。


 そのまま、消した。


 すぐにもう片方の手の方に、同じ紐を出現させる。前を走っていたペアは、突然自分たちを繋ぐ紐が消えたことに困惑していた。しかし私の手に握られた紐を見て、血相を変える。……そう。


 紐が切れたり外れたりした時点で、失格だ。


『おーっと、転校生が紐を奪った!! これは……セーフのようです!! 1歩間違えれば怪我をさせるかもしれませんでしたが……そこは会長のサポートのお陰でしょう!!』

「とーこちゃん、ナイス」

「出来ればやりたくなかったんですけどね……」


 1歩間違えたら怪我、どころじゃない。そのまま人ごと消してしまう可能性があった。だから私は、言葉ちゃんにその作戦を提案された時、反対したのだ。自分はそこまで異能の扱いに自信がない、と。

 なのに、あの人は。



『大丈夫。灯子ちゃんなら、出来る』



 真っ直ぐな瞳で、そう告げてくるものだから。

 ……しっかり、やり遂げてしまった。

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