第15話「湖のような青年」
新学期早々に
季節は変わり、秋になっていた。
今は9月……秋と言ってもいいだろう。しかし8月から9月に変わったからと言って、すぐに秋の涼しい気候になるわけではない。つまり何が言いたいかというと……暑い。
新学期、快晴の中、私は通う高校……明け星学園へと向かっていた。
歩く私の横を、同じ明け星学園の生徒と思わしき人が自転車で通り過ぎる。羨ましいな、とは思うものの、徒歩5分で学校に着ける位置に私の家はある……もとい用意されたので、自転車は使えないのだ。近すぎる、ということである。まあ……5分くらい、文句を言わずに歩け、という話か。
さて、歩いている間暇なので、私の話でもしよう。
夏休み前に私──
私は夏休み開始10日で宿題を全て終わらせると、後の時間全てを療養に費やした。具体的に言うと週に3、4回病院に向かい、そこで医療関係の異能力者に傷の治りを早めてもらう。ちなみに通院費も交通費も、通院のための車も全て国が手配してくれた……とか。何か契約書を書かされたけど、1回読んで納得したらもう興味がなくなって……詳しいことは忘れてしまった。
家では読書に精を出し(ちなみにその本たちも国が用意してくれた)、たまに来る
だがお陰様で傷も完治して歩けるようになったし、9月1日から普通に授業が入っているので、悲しいことに行かなくてはならない。
というわけで今に至る。あれだけ大怪我だったというのに、1カ月と少しだけで完治とは、本当に異能力というものはすごいのだな……と思う。
私は明け星学園の門をくぐった。おはよー、宿題終わった? などという声が飛び交っていて……なんとなく、家に帰って来たような感覚になった。何故だか分からず、私は思わず首を傾げる。
「……あっ、灯子ちゃん!」
そこで後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこには私の友人であり同い年の……
「……お久しぶりです、ココちゃん」
「久しぶり! 元気だった?」
「はい、この通り」
「わ~……すごい、あの怪我、全部治ったの?」
「みたいですね……定期健診にはまだ向かっていますが、異常はないようです。むしろ、体力が増したというか……」
「そんなことあるんだ……でも良かった、後遺症とか残らなくて!」
「……はい。私も、そう思います」
笑いながら私のことを心配してくれていたココちゃんに、私もそう言って微笑み返す。彼女のことを安心させられたのなら、良かった。
「ところで……持木くんは?」
「あー、
私はふと気になったことを尋ねた。というのも、いつも彼女の傍にいたはずの彼女の義兄……
するとココちゃんは、気まずそうに声をひそめ。
「……宿題、全然やってないみたいで、ボイコット」
「ああ……」
なんとなく絵面が浮かんでしまったため、それ以上は何も言わなかった。持木くん、何と言うべきか……期待を裏切らないと言うべきか……。
というか、明日からどうするのだろう。ずっと休んでいる、というわけにはいかないだろう。
すると私の思考を読んだみたいにココちゃんが、明日は引きずってでも登校させる!! と意気込んでいた。持木くんの背中が切実に心配であるが……まあ自業自得だろう。
そんな会話をしつつ、校内に入る。教室では早くも、授業の準備が始まっていた。夏休み明けに間髪入れずに授業か、と思われるかもしれないが、明け星学園には始業式とか終業式とか、そういうものがないのである。緊急で集められることはあるらしいけど。
次の授業が一緒だったので、ココちゃんと並んで着席する。見慣れた人が同じ授業にいるというのは、精神的にありがたい。
授業開始10分前になり、ピンポンパンポン~、と軽やかなチャイムが鳴った。このチャイムで私は理事長に呼び出されたんだよな、と思いつつ、そこから始まる放送に耳を傾ける。
『──皆さん、おはようございます。放送委員会委員長、
嫌なことを聞く放送に、周りから微かに悲鳴と、笑い声が響く。朗らかな雰囲気だった。
『私はやったはいいものの、全部家に忘れました。許して先生!! ……まあそれはともかく、9月になったというのに暑くて仕方ありませんが、気持ちを新たに!! 頑張っていきましょう。以上です』
宿題を全て忘れた、の辺りで歓声が巻き起こった。他人の不幸をそう喜べるとは、見上げた根性である。
その放送のお陰で、周りの雰囲気は余計に明るいものになる。新学期に、誰もが心を躍らせているのだ。何か新しい、面白くて楽しいことが起きないか、と……。
私は……特に何も起こらなくていい。1学期でだいぶ働いたのだ。極力、平穏に過ごしたい。
まあ……小鳥遊言葉と約束をしてしまった以上、そう簡単にはいかないと思うけど。
そこで授業の先生が教室に入ってくる。早速授業が始まるので、教科書を取り出そうと鞄を漁り……。
「……あれ」
思わず私は声に出してから。
「……すみません、ココちゃん……教科書、見せてくれませんか……?」
「えっ、灯子ちゃんが? 珍しいね……もちろん、いいよ」
小声で尋ねると、ココちゃんは快諾をしてくれた。机をくっつけ、2人で1つの教科書を眺める。ノートを取る傍ら、私は首を傾げていた。
……おかしい。昨日きちんと、忘れ物がないか確認したはずなのに……。
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