第12話「星々、闇に隠る」
子供じみた目的
「結論から言うと、この一連の事件の主犯は、私なんだ」
「はあ」
目の前に立つ明け星学園の理事長、
異能力の測定を行った後、私は放送にて理事長先生にここに呼ばれた。いつもは生徒会長である
……事件、というのは、異能力者が暴走し、なりふり構わず生徒たちを危険に晒してしまう、というあれだろう。その犯人が、今目の前にいる理事長先生。その微笑んだ顔、嘘を言って楽しんでいる……というわけでは、ないのだろう。その目が、笑っていない。
というか、それを私に言われたところで、「ああそうですか」くらいの感想しかないのだが。言葉ちゃんなら、今すぐここでブチギレて飛び掛かるくらいはするかもしれないが……私は生憎、そこまでの正義感を持っていない。
「あまり驚いたような様子がないね。予想通りだったかい?」
「……いえ。その事実の受け止め方に、悩んでいるだけです」
「そうか」
私の受け答えにも、理事長先生はニコニコと笑っていた。何を考えているのか分からないその表情は、不思議と言葉ちゃんを彷彿とさせた。
「では簡単に、一連の流れを説明しよう」
「別にいいです」
「まあそう言うな」
面倒な予感、と断ったのも束の間、そんな風に押し切られてしまった。……ああ……私は、テストも終わったことだし、帰りたかっただけなのに……。
「この前も言ったと思うが、私は、異能力者全員が、安心してこの現代社会で生きていけるような、そんな世界にしたいと思っている」
「……」
「しかし異能力者に対して、偏見が残るのが現状だ。見た目は平等だが、まだまだ完全な形式とは程遠い。就職が出来ない。出来ても重役に着くことが出来ない。家を借りることを断られることもある。異能力者に人権を渡すなと言う人もいるね。……私はうんざりしてしまったんだ」
この現代社会で、異能力者に居場所はない。少しばかり誇張はあるものの、これが現実だろう。「異能力基礎Ⅰ」で、
「異能力者が息苦しいこの世の中に、私は風穴を開けたい。そうして、私たちが楽に呼吸を出来る……私たちが生きやすい、そんな新天地を築く」
「……それと事件に、どう関係が?」
正直そんな理想論などに興味はなかったが、早く帰りたい一心で話の先を促す。すると理事長先生は、満面の笑みを浮かべた。
「異能力者の軍隊を作る」
それはまるで、あどけない子供のようだった。
「……軍隊?」
「ああ。特に、攻撃性の高い異能力者で構成する。そして見せつけるんだ。異能力者の畏怖と、脅威を。……二度と異能力者を、邪険にできないくらいに、圧倒的に」
「……」
黙ってしまった私が思ったのは。
何言ってんだこいつ。
「今しているのは、そのデモンストレーションというところか。攻撃性の高い異能力者に声を掛け、自主的に協力してもらった」
自主的。そう言う理事長先生の歪んだ笑顔で、私は悟る。
「脅した、の、間違いでは?」
「人聞きの悪い。私はただ、この計画の説明をした後に述べただけだよ。……彼らの家族や、友人の名を」
「……」
協力しなければ、大事な人を殺す。そういうことか。
つまり、
「とにかく、彼らには、この明け星学園の生徒を、無差別に攻撃してもらった。そして適当なところで正気に戻ったフリをする。……案の定、生徒たちは恐れた。自分の学友が、ある日突然、自分に牙を剥くのではないかと。……異能力者ですら、隣の異能力者を恐ろしいと感じるんだ。無能力者のやつらがどう感じるかは、考えるまでもない」
初めから、誰も操られていなかった。持木くんも、雷電先輩も。私や言葉ちゃんに「倒された」という段階を踏んで、正気に戻ったんだ。確かに、操られていた人が倒されて、正気に戻って、ハッピーエンド。よくある話だ。
「途中、
なるほど、聖先輩のことは、そういうことだったらしい。だから私たちから逃げていたのか。……私たちに事件のことを話すと、瀬尾先輩に危害が及ぶから。
大切な人を守らせてください、という台詞も、そういうことで。
……私たちは事件調査のところをこの人に見られ、そして笑われていたらしい。
色々言いたいことはあったが、私はため息を吐いて、それを全て押し流す。その開いた口のまま、それで? と、言った。
「……それを私に告げた、真意は何でしょうか?」
理事長先生は、唇の端を引き上げる。崩れない笑顔が、更にその狂気を映し出す。
「この計画に協力し、小鳥遊言葉を殺してほしい」
「……」
私は黙る。表情も、崩さない。
「小鳥遊くんは、あの通り人格者だ。私の計画には決して賛同しないだろう。……私も、この計画が非道なものだとは理解している。だが、新天地のためには多少なりともの犠牲が必要なんだ。異能力者と無能力者の平等など、もう古い。……話はそれたが、小鳥遊くんはこの学園『最強』の異能力者だ。どれだけ攻撃性の高い異能力者を募ろうが、彼女がいる限り、計画の成功率が下がってしまう。……だが、君なら」
「唯一生徒会長に匹敵することが出来るという、強い異能力を持つ転校生」。
そう呼ばれる私なら、ということか。
『君と戦うのは、骨が折れそうだからねぇ』
いつかの言葉ちゃんの声が、脳裏によみがえる。その時私は、なんて返したんだったっけか。
「……君が来てから、この学園は変わった。何かが、変わっている。今まで平坦に、変わり映えしなかったものが、確実な音を立てて動いている。きっと、君の動き次第で変わる。……私にも見えないんだ。君と、この学園の未来が。……だが君は、きっと私側に来ると思っている」
「……変わっただなんて、気のせいだと思いますが。……念のため聞いておきます。私は脅されていません。そうだというのに、私が貴方に協力すると思う、その理由は?」
「簡単なことだ」
理事長先生は、机の上のペンを手に取った。そしてそれを、クルクル回し始める。
「君に、大事だと感じる人はいない。君は常に孤独だ。君がその道を選んだ。……そして君は、本質的にはこちら側の人間だ」
「……」
「迷っているのかい? 迷うことはない。……そもそも君は、罪悪感などという感覚も、持ち合わせていないだろう」
そう、と、理事長先生は、ペンを回す手を、止めて。
「一度、人を異能で殺したことのある、君なら」
その言葉に、私は。
「……」
何も言わず、理事長先生を見つめ続けた。
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