第13話「星々は再び煌めく」

夢か現か

 ──こ。


 ──とうこ。


 ──灯子とうこ





 優しい声がした。それは私の耳に、聞き慣れた声だった。



 私はゆっくり目を開く。しかし目を開いたところで、暗闇だった。結局目を閉じていても変わらない……。だからこそ、目を閉じてもいいはず、だったんだけれど。


「……どこ、ねぇ、どこにいるの」


 私の口は自然と、そう口走っていた。私の瞳は、声の主を探す。でも目の前に広がるのは暗闇ばかりで、私の心も黒く染められる。……そんな感じがした。

 私は、駄目なんだ。この声の主を見失ったら、駄目なんだ。でも、例え見つけられたとして、私が話す権利なんて……。



『灯子、まーた難しい顔して考えてる! ほら、眉間に皺寄ってるよ~?』



 弾かれたように、顔を上げた。……しかし。


 やはり誰も、いない。

 何で、こんなに声は、近くにいるのに。


「……そこに、いるの?」

『いるよ』


 私が声を出すと、すぐに返答が来た。……でも、やはり姿はない。


「……どうして。私が……いや、私の……せいで……」

『違うよ。灯子、君は悪くない。それだけは断言する』


 右腕を激しく握りしめる私に、優しい声が降りかかる。……でもその声は、私を救わなかった。むしろ……心には激しい暗雲が立ち込める。

 目の前が真っ暗で、誰の存在も感じなくて……何だか、寒い。


『それより、灯子。今は大事な話をしなくちゃ』

「……?」

『灯子、君は今、死にかけている。……何が起きたか、覚えてる?』


 その言葉に、私はゆっくり思考を巡らせる。何が、起きたか……。


 ……私は、明け星学園という高校で、定期テストを受けていた。その後、友達と話して……先生の手伝いをして……そして……。

 ……学園で起きている、異能力者が暴走するという事件……その真相を、首謀者である理事長先生に伝えられ。

 断ったら、そのまま戦闘になって、苦戦し、それで……。


「……首を、絞められた」

『……そう、思い出した?』

「……鮮明に」


 声に頷く。そうだ、首を絞められて、そのまま……どうすることも出来ずに、私は、意識を手放したのだ。


「……私は、死んだの?」

『だから、死にかけだって。ちゃんと話聞いて。……もー、灯子は前からそうだけど、変なとこで話聞かないんだから!』

「……ごめん」


 姿は見えない。でも、何となく今、声の主がどんな表情をしているかが分かった。

 ……たぶん、きっと、呆れつつも笑っている。


『でもね、灯子。君はこのままだと死んじゃう。……だから早く、ここから出て、帰らなくちゃ』

「……」


 出て、帰る。

 ……帰る? 貴方のいない、あの世界に?


「……どうして、私は……せっかくまた、会えたのに……」

『……そうだね』

「ここにいる、ここにいたい。そうすれば、ずっと……」

『駄目』

「どうして」


 悲鳴のような声が、私の口から飛び出す。……らしくないと言われるかもしれないが、構わない。……今は、今はただ。


 離れたくない。


『生きていてほしいから』


 その言葉に、私は黙った。


『分かるでしょ? ……私と君は、一緒にいちゃいけないんだ。君がずっとここにいるのは、危険だよ』

「……でも、だって」

『灯子、お願い。ワガママを聞いてよ。……ズルい言い方だけど、……そうでしょ?』

「……っ」


 もう、何も言い返せなかった。

 いつもそうだ……こいつは私の話なんて一切聞かなくて、その割に口達者で、私は……負けてきた。ずっと、振り回されてきた。

 それが悔しくて。

 ……なのに、涙が出るほど懐かしい。


「……分かった」

『……良かった』

「ただ、1つだけ教えて。……貴方は……本当に……」

『……さぁ、どうだろうね。君の夢かもしれないし、もしかしたら、現実かもしれない』


 ただ1つだけ言えることは。

 声が遠ざかる。分かってしまう。私は目覚めようとしているのだと。


「……の、」

『まだこっちに来ちゃ駄目だよ、灯子』


 ……これが夢だとしても、きっと私は納得出来る。

 だって、私の中の貴方も……絶対にそう言うと、分かるから。


「……分かったよ……」


 仕方なく、私はため息交じりに呟く。

 どこかで聞き慣れた声が、笑っているような気がした。

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