消える星、地上を駆ける星
「──っ!!」
痛みに耐えるように、私は奥歯を噛み締める。そして。
「逃げるのかい?」
決して背中は見せず、逃げようとしていた私は、また目を見開く。
これは……やっぱり……。
──未来を、読まれている。
今度は怯まなかった。地面を蹴って、理事長室から出ようとする。……が、しかし。
目の前で動く理事長先生の方が、早かった。あっという間に私の前に降り立ち、私の首を、掴む。
そのまま、私は壁に押し付けられた。
「が、っ、はっ」
息が詰まる。締め上げられて、声も出ない。首を掴むその手を掴み、必死に抵抗するが……そこは男と女の、そして、大人と子供の体格差だ。びくともしなかった。
体が酸素を欲しているのが分かる。しかし上手く息が吸えない。……意識が遠のく。嫌だ、駄目だ、そう繰り返しても、現状は変わらない。むしろ抵抗する力は弱まるばかり。
……この人の手を、「A→Z」で、消してしまえば。
そうは思うが……いや、それは、駄目だ。
絶対。
「……やはり君は、異能力は強いが、その利を何1つ理解していない。まあ君は極力戦闘を避けてきたようだからね。無理もない話だ」
「……っ、……!」
「最期に教えてやろう。君の弱点は3つある。……1つは、目視出来ない攻撃への反応が遅れること。2つ目に、消す対象物が多いと全てに対処出来ないこと。最後に、『A→Z』と『Z→A』は同時に使用出来ないということだ」
そう言うと同時、私の首を絞める手の力が、更に強まる。遂に視界もぼやけてきた。醜い足掻きに過ぎないだろうが、私は理事長先生の手を掴む、そして、引き剥がそうとする。……が、もちろん何も出来ない。
すると理事長先生の高笑いが、鮮明に聞こえた。失われる意識の中、不思議とその声はよく聞こえた。
「無駄だ、この手袋には、異能力を打ち消す効力がある。異能力妨害室と同じ技術だ。……この手袋が覆っている範囲にしか効力は無いが、今の君には、これで十分だ」
手から、力が、抜けていく。駄目だ、ここで意識を失っては、駄目だ。
だめ、なの、に。
するりと手が解け、重力に任せて下に落ちる。それに合わせるように、全身からも力が零れ落ちる。そんな感覚がする。
遂に私は、意識を手放した。
──
校内を走る言葉に襲い掛かるのは、様々な異能力。そこに統一性の欠片もない。肉体1つで飛び込んでくる生徒、そこら辺にある物を操ってこちらに飛ばしてくる生徒、水を生成して窒息させようとしてくる生徒……その暴力の集団に、言葉はまとめて。
「……ああ、もう……うっせーーーー!!!! 鬱陶しいーーーー!!!!」
そう叫ぶと、容赦なく異能力を振るった。生徒会長の本気を前に、誰も敵わない。ギッタンバッタン倒す、という表現がまさに正しかった。とにかく倒す。今の言葉は、地上を駆ける流星だった。
それでも次々と湧いて来る生徒たちを前に、言葉は忌々し気に舌打ちをする。こちらは一刻を争うというのに。だが、暴走していないとはいえ、全員を説得して行くには……時間がかかりすぎる。やはり申し訳なさはあるが、全員をぶっ飛ばしつつ向かうしかない。
そんなことを考え、攻撃を繰り出しつつ、言葉はスマホを取り出した。器用に画面を片手でタップし、とある人物に連絡を入れる。
「……あー、先輩!? ……うん、久しぶり久しぶり!! ごめん今ちょっと切羽詰まっててさぁ……うわっとぉ!? 危ないなぁっ、ッ!! ……何笑ってんの先輩!! こっちは大変なんだよぉ!? ……それで、用件だけ説明するね!! 学園で異能力犯罪者が好き勝手してる!! 仕事しに来て!!」
電話の向こう側から返る、承諾の言葉を聞いて、言葉は電話を切った。それと同時、足元を掬うような攻撃が来たので、飛んで避ける。そして文字を操って網のようなものを作り……自分に向かってくる生徒に纏めて、上から被せた。
身動きが取れなくなった生徒たちを横目に、言葉は再び学園を駆ける。
「……灯子ちゃんっ」
短くその名を呼ぶ。出来れば無事でいてほしい、というか、そもそも……味方でいてほしい。そんな風に考えながら。
【第12話 終 第13話に続く】
第12話あとがき
→https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330653435982966
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