死ぬわけにはいかない
──
……面倒だが、相手をするしかない。そう決めたはいいものの、とりあえず私が考えたのは。
──言葉ちゃんに連絡しよう。
まずはこの事実を伝えなければ。言葉ちゃんが来るだけで、数倍も心強い。……戦闘慣れしていない私より、役立ってくれるだろうし。
そう思いつつ、私は制服のスカート、そのポケットの中にあるスマートフォンに手を伸ばそうとするが……。
「小鳥遊くんに連絡するつもりかい?」
次の瞬間、私の手の真横に何かが飛んできた。後方を仰ぐと……壁に突き刺さった、ナイフが。
「……今のは威嚇だ。次は当てる」
「……」
私はその発言を聞きつつ、別のことを考えていた。
……そういえば私、言葉ちゃんの連絡先、知らないし……。
大人しく手を引っ込める。……どうやら、自分でやるしかないようだ。
だから足を踏み出そうとする。何にせよ、まずは理事長先生に近づかなければ……。
……しかし。
「右足」
理事長先生は一言、そう告げた。
それに思わず、右足を出そうとしていた私は、その動きを止めてしまった。
それと同時、ニヤリと笑う理事長先生。しまっ──。
「──ッ!!」
怯んでしまった私を、何かが襲う。全身を焼くような痛み……熱風だった。
慌てて消すが、ダメージは残る。……というか、ただの熱風にしては、痛みが酷い。……反射的に守りに出した腕が震えている。これは……。
「右手で左腕を抑える」
「!!」
右手で左腕を抑えようとしていた私は、再びぎこちなく動きを止める。どうして、私のしようとしていることが……。
……いや、考えている暇はない。
すると予想通り、再び理事長先生が何か手を動かす。……次の瞬間、理事長室の壁という壁から出てくる、銃口。
それを認識しきる前に、次々と鉛の塊が飛んできた。もちろん、消せばそんなものは、対した脅威ではない。……ない、のだが。
「ぁ、ぐっ……!!」
目の前を、鮮血がほとばしる。銃弾の1つが、私の左膝を貫通した。……消せなかった。いや、間に合わなかった。
……私の異能力、「A→Z」には、デメリットがある。
それは、1度に消せる量に限度があるということ。
それがどの程度の量なのか、私も知らない。でも……この人はたぶん、知っている。
「……私のことを協力させようとしていた割には、随分な対策のしようですね」
「備えあれば憂いなし。良く言うだろう? ……例え君が相手でも、不足を取るつもりはない」
そう言うと理事長先生は、自分の前にある机に、足を乗せた。……そして大きく、跳躍。私のことを見下げるその手には、2丁の拳銃。その銃口を、私に向け。
降ってくるのは、銃弾の雨。
……改造された拳銃らしい。でないと、普通の拳銃から何発も同時に弾が出るなんて……ありえない。
消す、じゃ、先程までと一緒だ。一部は対処出来なくて傷を負う……それなら。
「……っ」
全身に力を籠め、手を上に向ける。想像する。
銃弾には……防弾。
すると「Z→A」で生成されるのは、アラミド繊維。……防弾チョッキに使われる素材だ。たまたま化学の授業で習ったことがあって、助かった。……それを私の頭上に広げる。するとそれは銃弾の雨を防いでくれた。しかし。
「……く、っ」
先程撃ち抜かれた左膝。力むほど痛みが走り、よろめいてしまう。するとそれに合わせてアラミド繊維も角度を変える。……生じた隙を狙ったように、銃弾の1つが右脇腹を貫いた。思わず口から、情けない悲鳴が飛び出る。……当たり前だ。今まで「普通」に生きてきた。こんな痛み、知らない。
──私じゃ敵わない。
痛みと疲労。それらから出された結論は、そんなものだった。敵わない、私じゃ無理だ。持木くんや雷電先輩と戦った時とは、話が違う。このままじゃ私は……。
……死ぬ。
「──、」
それは、困る。すごく。
別に、生きていたいわけではないし、私が生きたところで何も変わらないと思うけど。
『ねぇ、灯子』
『──ありがとう』
もうあんなこと、絶対に言わせない。
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