第19話「魔法少年と強化修行【前編】」

力試し

 カーラさんの髪色が変わっていたことに言葉ことはちゃんは驚き、戸惑っていたようだけど、いずみさんが多重人格なんだと説明をすると、彼女は得心したようだった。

 改めてカーラさんと言葉ちゃんが初めまして、と挨拶を交わすのを、私は後ろから眺める。


 ……今のところ見ているのは、「レッド」、「ブルー」、「グリーン」……戦隊もののヒーローを彷彿とさせるが、他にも人格はあるのだろうか。

 と、いうか……が、主人格なんだ?


「じゃあ、自己紹介も終わった、個人的な話も終わった……というわけで、本格的に最重要任務に向けて、動き始めようと思う。皆、過酷な道にはなると思うけど、付いて来てほしい」

「はーいっ」

「……」

「はぁい」

「ぇ、ぁっ、ぁいっ!!」


 言葉ちゃんは元気よく告げ、私は黙って目を伏せ、カーラさんはのんびりと返事をし、大智だいちさんは声を裏返させる。私は特に声は出さなかったが、しっかりと同意は汲んでもらえたのだろう。泉さんは満足げに頷いた。


「よし、じゃあちょっくら場所を移動しよう。詳しくはそこで説明する」





 そう言って私たちは、長い長い廊下を進んでいった。……要塞は、私たち以外の人の気配はない。これっぽっちも。皆無だ。……本当に私たちしかいないのだと、逐一思い知らされる。

 そしてこの要塞、海に沈んでいる割には、そして利用者が少ない割には、とても広い。廊下は長いし、至る所に部屋がある。それにここに来た時も思ったが、無駄にハイテクな機器の数々。ここに最新鋭の技術を全て詰め込みましたと発表されている、と言われると納得してしまいそうだ。


「はい着いた。ここだよ。長々とお疲れ様。……いやぁ、ここってほんとに広いから、困っちゃうよね」


 泉さんはそう言って笑いつつ、とある大きな扉の前に立つ。そしてその横に備え付けられているパネルに、その右手を置いた。

 するとパネルは緑色に光り、扉が音もなく、滑らかに開く。


 部屋の中に入ると……そこは、とても天井の高い部屋だった。足元には土が敷かれていて、何だか安心する。上を見上げると、壁が何やら一部分だけ出っ張っており、窓が備え付けられている。……直感的な感想に過ぎないが、あれは恐らくモニタリングルームだろう。丁度、ここを見下ろせる構造になっている。

 それ以外に窓はない。……ここに入ってから、どこに行っても窓があり、海の中を見ることが出来たが……ここは違うみたいだ。


「わ、わ、広い……し……落ち着く……」

「ここでなら駆け回って遊べそうです~」


 大智さんとカーラさんが思い思いの感想を言う中……言葉ちゃんだけがその後ろで、何故か壁をコンコンとノックしていた。

 私がそれを見守っていると、彼女は顔を上げ、泉さんに向けて告げる。


「……ここ、トレーニングルーム?」

「お、流石。よく分かったな」

「他の部屋に比べて、音の響き方とか違ったからね。まあ単純に部屋が高いからかもしれないけど、そうでもないみたいだし。ここ、他の部屋に比べて壁が厚いから。……大方、どれだけ暴れても壁が壊れないように……ってことかなって」

「大正解」


 淡々と語る言葉ちゃんに、泉さんは満面の笑みを浮かべる。そして小さく拍手を送った。


「そう、小鳥遊たかなしの言う通り……ここはトレーニングルーム。ここで異能力の腕を高めたり、武器を試したりする。……まあここにいるのは全員異能力者だし、大方異能力の特訓のために使うことになりそうだけどな。

 ここの壁は特に厚いから、どれだけ暴れても問題なし!! 今までも結構使ってきたけど、もちろん壊れたことは1回もない。安心して暴れてくれ」


 安心して暴れろとは、大したパワーワードだ。


 同じことを考えているのだろう。言葉ちゃんも苦笑いを浮かべていた。

 そこで1人が手を挙げる。緑色の髪の少女、カーラさんだった。


「たいちょぉ、質問宜しいですか~?」

「ああ、いいよ」

「それで、あたくしたちをここに連れてきて……一体何をするのですか~?」


 そう告げるカーラさんの瞳は……期待に満ち溢れていた。まるで、獲物を前にした獰猛な獣のように。


 すると泉さんもニヤリと笑う。良い質問だ、と告げ、カーラさんのことを指差し……それから、その人差し指を天高くつき上げた。


「ここで、皆の力試しを行う!!」

「おおっ!!」


 その言葉に、カーラさんがテンションを上げたように両手の拳を握りしめる。のんびりとした性格の割に、戦闘が好きらしい。

 一方その横に立つ大智さんは、えええ!? と叫んでいた。ここは部屋が高いので、その声がよく響く。


「ルールは単純。1対1で戦い、相手を降参させるか、相手を倒れさせて10秒起き上ることが出来なかったら、勝ちだ!! ……もちろん、過剰な攻撃は禁止だ。その時は俺が、間に入る」


 その後は言わなくても分かるな? と彼は笑った。だが目が笑っていない。……誰もが息を呑み、コクコクと頷く。

 それを確認し、彼の目もきちんと笑った。


「あくまで力試し。俺がお前たちの実力のレベルを判断するためだ。だからこそ、全力でやってくれ。……過剰な攻撃は禁止だけど、まあお前らも子供じゃない。そこは上手くやれるだろ」


 そう言うと泉さんは、人差し指をくるりと回す。そしてカーラさん、次に大智さんを指差し。


「第1カードは、パレットとみことだ。2人とも、期待してるよ」

「っあゅ、が、がんばりますっ……」

「ま、あたくしの圧勝でしょけど~」


 大智さんの小さな意気込みは、カーラさんの強気な発言で打ち消されてしまっていた。そうだよね……僕なんて……と蹲り、落ち込み始めた大智さんの背中を、そんなことないぞ~、と泉さんがさする。


「で、第2カードは、俺と小鳥遊」

「えっ!? 泉先輩と戦えるの!? やったー!!!!」


 そしてさすりつつも発表されたカードに、言葉ちゃんが飛び上がった。よほど嬉しかったらしく、その場で飛びながら回る、という器用なことをしている。


「ま、今日はとりあえず説明だけということで。今日はもう遅いし、明日やろう」


 時間を見る。確かに、放課後になってからしばらく経った……外はもう暗いのだろう。


 ……。


「……あの、私は……」


 力試しだと聞いた時、まあもちろん、面倒だな、と思った。思ったが、呼ばれないのも呼ばれないので、気にはなる。


 すると泉さんは、満面の笑みを浮かべ。


伊勢美いせみは論外」


 そう、辛辣な言葉を私に浴びせるのだった。

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