県立若恩高校
……端的に言われ過ぎて意味が分からなかったが、詳しく聞くとこういうことだった。
「お前の実力……まあ異能力の使い方だな。それは、初めて会った時に見て、大体分かった。お前はこの中で、間違いなく一番弱い。どちらもまともな実力を発揮出来ず、終わってしまうのが目に見える。
……お前はそもそも、自分の異能力の本質を理解していない。だからまず、それを理解して来い。話はそれからだ。
場所を連絡しておくから、そこであるやつに会ってこい。話は通しておくから」
仲間の異能もよく知っておく必要があるし、ここでやる戦闘をビデオに収めておくから、それは後日渡す。とも言われた。カーラさんと大智さんはともかく、言葉ちゃんと泉さんの戦闘は、とても気になるところだ。元生徒会長と、現生徒会長……どれだけ2人の「本気」が見れるか、興味がある。言葉ちゃんに敵うためにも、研究は必要だ。
……そして、自分の異能力を、全く理解していない……それは、元理事長にも言われたことだ。それを初めて会った時──十中八九、なんかあからさまに怪しいやつらに絡まれた時のあれだろう──だけで見抜いてしまうとは。やはりあの人、飄々としているように見えて侮れない。
というわけで私は、次の日の放課後、その「あるやつ」とやらに会いに行くことになった。明け星学園の校門の前で、スマホを取り出す。そこには、いつの間にか友達登録されていた(まあ大方、言葉ちゃんから聞いたのだろう)泉さんからのメッセージ。書いてあるのは、とある県立高校の名前と、そこに向かうまでの地図。そして、こいつに話を付けておいたから、というメッセージと共に、1人の名前とその人の特徴が書いてあった。
……名前からして、女性だろうか。えーっと、明るめの茶髪に、左目の下に泣き黒子……。いや、情報少ないな。これじゃ見つけられる自信が……「向こうが見つけてくれるだろうから、まあ大丈夫だよ」。と書いてある。メッセージでまで思考を読まれた……。
地図を頼りに、私はその高校まで向かった。……ちなみに、言葉ちゃんとはここに来る前に少し会って……泉先輩と戦うの、めっちゃ楽しみ!! と語っているのを聞いた。戦闘好きは恐ろしい。
……今頃、もう向こうでは、力試しの戦闘が始まっているのだろうか。
そんなことを考えていると、目的地である高校に辿り着いた。私たちの通う高校、明け星学園と同じく、この高校も帰宅時間なのだろう。多くの生徒たちが、外に出ては散っていっていた。
「県立
校門に取り付けられた表札を見る。うん、私はしっかり辿り着けたみたいだ。
……待つ以外にすることもないので、私は邪魔にならないところにボーッとつっ立っておく。私は空気、私は空気……と言い聞かせ続けるのだが。
「あの子、誰?」
「あの制服、どこのだっけ」
「誰か待ってるのかな~」
小声でひそひそと、そんなことを言われているのが分かる。私はことごとく、自分の気配を消すことが出来ない。ああ、目立ちたくない……しかもこんな、知り合いがいないところで……。
遂にいたたまれなくなり、私はスマホを取り出した。特に連絡する相手もいないが、とりあえず開く。……迷った末、調べたのは、この高校のこと。
……まあ、調べなくても知ってるんだけど。
県立若恩高校。校舎は綺麗だけど、それは何度も改修工事を行って、最新設備を整えているから。本当はここら辺で一番古い、歴史のある高校だ。……何よりも特徴は、この学校には異能力者が全くいない。無能力者のみで構成されている……。と、これは私が調べた時の情報だから、今は不明だ。……だから分からない。私の異能力の本質を知るためだというのに、どうしてその「あるやつ」という人は、ここにいるのだろう。無能力者に教えられることがあるのだろうか。
……ちなみに、どうして私がこんなにこの高校について知っているのかというと、それは、ここが私の進学先候補だったからだ。
結局、別の高校に行ったし、そこはすぐに退学して、こうして明け星学園に来たけど。
若恩高校を候補に入れたのは、特に理由があったわけではない。ただ、制服が可愛かったから……。
そこで目の前に、人が止まった。確実に、私を認識し、私に用があって、止まっている。
「……お前が
私が顔を上げるのと、そう声を掛けられるのは、同時だった。
私は思わず目を見開く。それは、女性だと思っていたのに声が低かったのに驚いたからで。そして……その堂々とした佇まいに、ただ者ではないと感じてしまったからで。
……どうして私の前にはいつも、普通では無い人が現れるのか。
明るい茶髪は短く、時折跳ねている。両耳にはピアスが付けられており、その髪色と相まって真面目そうには感じられない。だが黒縁眼鏡と左目の下の泣き黒子で、怖そうな雰囲気を緩和させているように感じられる。そしてその瞳は鋭く……それでいて、凛とした強さに満ち溢れていた。
……泉さんの言っていた特徴と、当てはまる。じゃあやはり、この人が……。
「……
「……同い年なんだし、そんなに
彼はそう言ってため息を吐く。同い年、彼も高校1年生みたいだ。
無難に、春松くん、とでも呼ぶか。なんて考え、声にする前に。
「……ただし、『夢ちゃん』とか言ったら、殺す」
凄んだ、恐ろしい顔で、彼はそう言い放った。
……夢、という名前を聞いて、私は女性だろうと思った。たぶん彼にとっては、それも地雷なのだろう。
「……春松くん」
「よし」
彼……春松くんは満足げに頷くと、腕を組んだ。
「泉さんから話は聞いてる。……面倒だけど、俺がお前を鍛えるから。まあよろしく」
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