突拍子もないお願い
「……お前って、密香のこと、嫌い?」
「……別に、どっちでもないです」
「わー、密香もそう言いそうー。……ねぇ、密香と仲良くしてやってくれない?」
「な、何で私が」
あまりにも突拍子もないお願いが飛び出してきた。流石に尋ねる声が若干上ずってしまう。
だがそんな私にも構わず、彼は続けた。
「ほら、なんかお前ら、気が合いそうだし」
「ど、どうですかね……」
「密香も1人くらいまともに話してくれる人がいた方がいいだろうし」
「本人からしたら余計なお世話だと思いますけど……」
「あ、ほら、密香が言いそう。……やっぱお前ら、似てると思うよ?」
「……自分と似てる人ほどそりが合わないみたいな話、聞いたことありますけど……」
「俺と小鳥遊、割と似てると思うけど」
「……というかこの話、忍野さんに聞かれてないんですか……?」
「密香には
「…………………………」
なんか、色々ツッコミたい。この人自身も、泉さんと言葉ちゃんが似ていると思っていたのか、とか、この人、自分がパレットさんたちに疑われているの知ってるのか、とか。
……パレットさーん、全部筒抜けらしいですよー……。
一通り現実逃避をしてから、私は大きなため息を吐く。
「……頭の片隅には入れておきます……」
「やったね」
いい返事をしてくれなければ逃がしてくれなそうな雰囲気を醸し出していたくせに。私はそう思いつつも、声にはせずにため息に変えた。
……本当にやるかは、別の話だ。うん。
「じゃ、今度こそ行くか。……お前は春松の方、だよな」
「はい。……初任務について聞かせろ、と言われています」
「だろうな。あいつには全部教えちゃって大丈夫だから。なんか意見仰いどけよ」
「……分かりました」
私が頷くのを確認してから、泉さんは適当に荷物をまとめる。そして理事長室の電気を……消す。
「ほら、伊勢美。出るぞ」
「……はい」
促されるまま、部屋を出る。泉さんは鍵を取り出し、そこに鍵を掛けて。
窓の方に視線をやり、外を見る。陽がもう落ちかけているのが分かった。
校門まで共に歩き、明け星学園の敷地内を出たところで、泉さんと向き合う。まあ、ここから別の道になるので。
「じゃ、また明日。学校でな」
「はい。……お疲れ様でした」
軽く頭を下げる。泉さんは小さく手を振ると、その場を去って行った。その背中が、どんどん遠くなっていく。
……いつまでも背中を見ていても仕方がないと、私も踵を返して歩き出した。
夏が終わったからだろうか。陽が落ちるのが早い。気づけば道の端に建てられている街頭が存在を主張し始め、空にはまばらに星が煌めき始めている。
『……お前が小鳥遊の〝星〟になってくれることを、願ってる』
泉さんに言われたことを思い出す。残念ながら、私は〝それ〟にはなれないけれど。
……つまり泉さんにとっての、〝星〟は……忍野さん、ということになるのだろうか。
……いや、そう考えるのは、安直か。
というか泉さんにとっての〝星〟とは、何なのだろう。あの話の流れだと……救い、とか? ……いやいや、私に似合わなすぎだろう。そんな立場は。
『見えないところでも、輝いて、それでも確かにそこにいて、ふとした時に誰かが、僕のことを見つけて、幸せに笑ってくれるみたいな……。夜と朝を超えて、繋ぐみたいな……そんな存在に、なりたい』
今度は、言葉ちゃんの言ったことを思い出す。あの人は、少しでもそれに近づけているのだろうか。
……そこまで考えて、目を伏せて。
……いや、私には、関係のないことだ。
私は足早に歩き出す。流石に遅いと、そろそろ春松くんにキレられそうだ。
【第24話 終】
第24話あとがき
→https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330668949369641
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます