ようこそ、明け星学園へ

 沢山の視線に見守られながら、私たちは理事長室に辿り着いた。ここに「校長先生」っていう人はいないらしい。いるのは理事長だけ。この学園を創設した人が初代理事長で、そこから代々継がれているのだろうか? まあ……私が考えても仕方のない話だ。


 とにかく理事長室の中を見渡すと、まず目に入るのは高級そうなソファ。そして部屋の中央奥に置かれた、大きな机。その席に座る人。その後ろに掲げられた……タペストリー。そこには、アルファベットの「A」が3つ並んで描かれていた。何だろう。この学園の、象徴みたいなものなのか……。


「りっじちょー!! 来たよー!!」

「小鳥遊くん……来てくれるのは嬉しいけど、ここは遊びに来るところじゃないと何度も……って、おや?」


 顔を上げた理事長先生は、そこで私に目を止める。そして立ち上がった。


「何だ、転校生を案内してくれていたのか」

「そーだよー!! 僕ってば、優秀な生徒会長様だからね~っ!!」

「ああ、心配せずとも君はいつも優秀だよ。……それで君は……」


 そこで私は、言葉ちゃんに少し背中を押される。振り返ると、彼女は私に軽くウインクを決めた。何をしても、綺麗に絵になる人だ……そう思いながら、促されるまま私は前に出る。


「……伊勢美灯子です……お世話になります」

「うん、伊勢美くんだね。話は聞いているよ。私はこの学園の理事長、百目鬼ももめきれい……ようこそ、明け星学園へ」


 そう言うと、理事長先生は私に向けて腕を広げた。その顔には笑みを携えて。……この学園の中枢を担う人は、顔面偏差値が良くないといけないのだろうか……だなんて、冗談抜きでそう思った。


「じゃあついでだ。小鳥遊くん。我が学園の校訓を読み上げてあげなさい」

「はーいっ!! まっかしといて~」


 そう言うと言葉ちゃんは、理事長先生の隣に並ぶ。手招きをされたから、私も彼女らに歩み寄り、言葉ちゃんの横に並んだ。見上げるのは、「A」の3つ並んだ、タペストリー。


「この学園はね、3つの『A』をいつでも心にもって、生活をしないといけないの」

「3つの……『A』……」


「そ。


 まず1つ目は……『Ability』。僕たちは普通の人にはない、とても強大な力を持っている。それを自覚すること。だからこそ驕らず、その力を弱者に振りかざすことをしない。


 2つ目は、『Ambitious』。いつだって野心的に。この能力を使って、人のために。時に常識的には考えられないアイディアを。


 最後に、『Apex』。常に向上心を持ち、努力を怠らず、上を目指すこと。学友と競い合い、自身の能力を高め、新たなる活用法を見出すこと」


 言葉ちゃんの声に、自然と前傾姿勢になる。3つの、「A」。その意味を、言葉ちゃんはカンペも無しにそらんじて見せた。それはきっと……言葉ちゃんは常日頃から、それを意識して行動しているのだろう。


 慈善活動。

 成績優秀。

 文武両道。

 品行方正。

 ……学園最強。


 顔を上げると、言葉ちゃんと目が合った。するとすぐに言葉ちゃんは、私に笑いかけてくれる。綺麗で、真っ直ぐな、笑顔。

 明け星学園の生徒会長。この学園で一番強い、異能力者。小鳥遊言葉。

 かも、じゃない。この人は、本当にすごい人なんだ。……こんな人を。

 ……この人を。



 ──この人を、超えられたら、私は。



 、達成することが、出来る。



「……私、この学園で、頑張ります」

「おっ!! やる気だねぇ~。うん!! 一緒にがんばろ!!」


 私の考えることなど露知らず、言葉ちゃんは人懐っこい笑みを向けてくる。そして何故か私は、言葉ちゃんに手を取られていた。……何故かそのまま、その場でクルクル回り出し。


「……え、えっ? 何してるんですか……? これ……」

「踊ってる!!」

「あ、いや、それは分かるんですけど……いえ、もういいです……考えたら負け……」

「そーいうことっ!!」


 やはり、こう踊っていることに特に意味は無いらしい。社交ダンス、だろうか。それにしては両手を繋いでクルクル回っているだけだし、たぶん私の知らないダンスだ。というか、今即興でやっているのだろう。

 ああ、だから、考えたら負けなんだって。

 ため息を吐きたくなるけれど、少ししたら何だか楽しくなってしまって、結局笑いながら、私たちは理事長室の真ん中で、手を繋いで踊り続けるのだった。



【プロローグ 終】





オマケ

「はーっ、踊った踊った!!」

「……つ……疲れ、ました……」

「まさか30分程、脇目も降らずに踊るとはね……」

「10分くらいで異常に気が付けば……良かった……というか……理事長先生、止めてくださいよ……」

「いや、私には小鳥遊くんを止めるなんて、不可能だよ」

「そんな……」

「そう!! 僕は誰の制止も受けないのだ☆ ……ところで、何で僕たち踊ってたの?」

「「君(言葉ちゃん)が踊り始めたんじゃない(です)か!!」」

「……あれぇ?」




プロローグあとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330647650456608

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