まるで小説や漫画の世界みたいな
私が呆れていた、その時。
「お前が噂の転校生か?」
そんな風に、後ろから声を掛けられた。
私たちが振り返ると、そこには8人くらいの学生と思しき人たちが。
……。
「違います」
「違うってー。残念だねー」
すぐに反応した私に、言葉ちゃんがそう便乗する。……ノリがいい。
「そうか、違うのか。それはすまないことをした……って、そんなわけあるかぁ!!!!」
「おお、君、ノリいいねぇ」
そんな風に言葉ちゃんはケラケラ笑い出す。うっかりノリツッコミをしてしまっていた男子学生は、言葉ちゃんに笑われたことが悔しかったのか、真っ赤になって震え出した。
「~~~〜ッ、生徒会長!!!! ここで会ったが100年目!!!! 俺と勝負をしろ!!!!」
「おっ、いいねぇ!! やる~!?」
そこで、言葉ちゃんの雰囲気が……変わった。
とても楽しそうに。それでいて綺麗に。美しく。なにより、凛々しく。
それは間違いなく……強者。そんな言葉が似合う、背中で。
「僕に喧嘩売ったこと、後悔しないでねっ!!」
「会長の無敗記録……今ここで!! 俺が!! 途切れさせてやる!!」
そして2人は、同時に構えた。
男子学生は……その手に「炎」を携え。
一方言葉ちゃんは、パーカーのポケットからノートを取り出し……そこから、「文字」を取り出し。
2人は笑っている。そして私のことなんかお構いなしに、笑いながら睨み合い……そして。
ドンッ!! と、その力が衝突した。
衝撃波に、こちらがよろめいてしまう。……今まで見たことが無い景色に、思わず目を見開いて。見逃さないよう、意識を集中させて。
「……すごい」
気づけば口から、そんな言葉が零れ出ていた。すごい。私の拙い語彙力じゃ、それしか言えない。
魂のぶつかり合いを、見ているようだった。
時には命のやり取りをするような……それでもそれを全力で楽しんでいるような、そんな光景。
これが、日常的に行われているんだ。
私の知らない、日常。
まるで小説や漫画の世界みたいな。そんな世界が、私の目の前に広がっている……!!
胸が高鳴る。鼓動が速い。柄にも無く、ワクワクしてしまっている。
……今日から私も、この学園で過ごすんだ。
──
この世には、はるか昔から、2種類の人間に分かれている。
それは──異能力を持つ人間か、それ以外か、だ。
昔、異能力者は無能力者より圧倒的に少なかった。そのため、異能力者は迫害され、時には虐殺され、奴隷のような労働力として活用され……。
しかしいつしか人々は気が付いた。異能力者の持つ異能を用いれば、人類の更なる文明の発展に繋がるのではないか、と。
もちろん最初は一筋縄ではいかなかった。異能力者を酷使していたことにより、異能力者と無能力者には、大きな心の溝が生まれてしまっていた。
しかしいつしかそのわだかまりは消え去り、異能力者と無能力者は、共存をするようになった。結果的、異能力者の生存率は無能力者とほぼ変わらなくなった。
遺伝により異能力を得る者。何か衝撃的な出来事のショックで、異能力を得る者。……私のように、ある日突然理由もなく、異能力を得る者。
この世は、異能力者で溢れている。
──明け星学園。
この辺りで、その名前を知らない人はいない。……それほど有名な、エリートの中のエリートの集まる高校。
その正体は……。
……日本で、いや、世界で初の、異能力者による、異能力者のための学園。
そして私……伊勢美灯子は、元無能力者でありながら、異能力を得て、この学園にやって来た。
「ふい~!! 僕の勝ちだねっ!!」
「くそ~っ……会長の連勝記録の援助をしちまった……」
「いやいや、君もいい線行ってたよ~? 自信持って!!」
「ほんとかよ……」
言葉ちゃんがそう言って手を差し出す。男子学生はその手を取って、立ち上がった。お互い、すっきりしたような顔で、笑い合いながら。
自然と周りには沢山の人が集まっていて、拍手が沸き起こった。言葉ちゃんも男子学生も、照れたように周りに手を振る。私も小さく拍手をしていた。それほど……やっぱりそれは、すごい景色だったから。
私の元に言葉ちゃんが戻ってくる。軽く肩を回しながら、言葉ちゃんは苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、ごめんねぇとーこちゃん。寄り道しちゃって……」
「……いえ……」
「そっか。……」
そこで言葉ちゃんは黙ったかと思うと……ズイ、と、私に勢い良く顔を近づけた。キスでもしそうな距離だった。驚いて、私は思わず一歩後退る。
しかしそんな私に構わず、言葉ちゃんはニッ!! と笑った。
「ね、楽しかった?」
その問いかけは、恐らく意味を成してなかった。言葉ちゃんにとって、きっと私の答えなんて決まりきっていた。だから私は答えるのが嫌で。……でも嘘を吐いて答えるのも嫌で、私は、少し言い淀んでから、告げた。
「……少しだけ」
すると言葉ちゃんは、私から顔を離して、告げる。
「なら良かった!!」
その笑顔を見て、私は確信する。
私はこの学園で、絶対に忘れられない、そんな経験をするんだ──って。
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