これで良かったのかな
そして、次の日。
海中要塞に辿り着いた私と言葉ちゃんが見たのは……怠そうに紫色の髪の毛先を指先でいじる、カーラさんだった。その横には、冷や汗を零した大智さんが立っている。
「……ジュース、おかわり」
「っはいっ!! ただいまッ……!!」
カーラさんが告げる短い単語に、大智さんはすぐに反応する。すぐ傍に置いてあったジュースのペットボトルを手に取ると、彼女の持つグラスに注いだ。……その様子はまるで、姫と家来で。
「……何これ」
「……さあ……」
言葉ちゃんの至極真っ当な問いかけに、私は短く答える。
やはり私の目には、大智さんがカーラさんに無理矢理付き合わされているように見えたのだが。
言葉ちゃんは大きくため息を吐く。これからカーラさんに話し合いを持ち掛けないといけないのが、億劫なのだろう。髪色からして、どうやら昨日と人格は違うようだが……一体どうなるか。大智さんが言っていたように、マシにはなるのか。判別がつかなかった。
「……あのさぁ、カーラちゃん。明日の作戦について話し合いたいんだけど」
勢いで言ってしまおうと思ったのか。いつもより若干早口で、言葉ちゃんはそう告げる。その硬い表情は、まるでカチコミにでも来たみたいだ。……この人、顔が良いし、すごまれるとそれなりに怖いんだよな……今、それがありありと出ている感じがする。
するとカーラさんは言葉ちゃんに一瞬視線を送り、すぐに興味を失ったように自分の爪をいじり出した。
「……勝手にやっていいわよ」
「「え?」」
思わず私と言葉ちゃんの声が重なる。
意気込んだ割には肩透かしというか。こちらの熱と向こうの熱の温度が、あからさまに違う。
「……い、いい、って……」
「コイツから聞いたけど、アンタたちでもう沢山考えたんでしょ? 『インディゴ』は張り切ってたみたいだけど……うち、そういうのメンドいし。勝手にやってていいわよ~。あ、後から文句も言わないから」
コイツ、というのは、言わずもがな大智さんのことで。全く視線は向けないが、その代わりに足を踏まれていた。いっ……だぁっ……!! と悲鳴をあげていて、それでも笑顔をキープしていた。たぶん笑顔を強制されているのだろう。なんだか、可哀想である。
言葉ちゃんは呆けてしまっていて、だけどすぐに首をブンブンと横に振った。
「わ、分かったけど……ほんとに!! 後から絶対文句とか言うんじゃねーぞ」
「言わない言わない~。……あ、でも、カーラだけが過剰に危険になるようにする……とかいう作戦はやめなさいよ。流石にそれは、うちも黙っておかないから」
「んなことしないし……分かった、じゃあやっちゃうからね」
カーラさんはもう答えなかった。ただ黙って、ひらひらと手を振るのみ。言葉ちゃんはすぐに背を向けた。
私は大智さんに視線を送る。すると彼は、勢いよく首を横に振って、腕で必死に×を作っていた。……彼も話し合いには参加できないと。
だから私は、言葉ちゃんの背中を追う。結局昨日と変わらない。私と言葉ちゃんで作戦を立てることになりそうだ。
「……なんか、さ」
言葉ちゃんはぽつりと呟くと、そのまま……はぁ、と、特大のため息を吐く。
「これで良かったのかな、感が……すごい……」
「……まあ、昨日よりはマシでは?」
慰めになっているか分からない私の言葉に、彼女はまあね、と頷く。そして再び……大きなため息を吐くのだった。
初任務まで、後1日。
【第21話 終】
第21話あとがき
→https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16817330666575034012
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