脆弱な光

 ある男は1人、夜空を仰いでいた。


 今の季節は秋。あとどれくらいで夜は明けるのだろう。

 そして。

 一体どれだけの人が、生き残っているのだろうか。


 星とは、夜が明けると太陽に掻き消されてしまう脆弱な光だ。というか、不思議なものだと思う。星なんて、宇宙のゴミの集まりに過ぎないというのに。どうしてあんなに弱くとも光るのだろう。どうせ太陽に消されてしまう。夜の光なら、月に任せればいい。

 そうまでして、光る理由は──。


 そこまで考えたところで、足音が近づいていることに気が付いた。この気配には……覚えがある。


 やがて月のスポットライトを、星の装飾を携えた少女が、姿を現した。


 ローファーを履いていて、どこかの制服を身に着けており、胸元には赤いリボンが結ばれている。その手には星の光を反射する日本刀が握られている。顔立ちは、少しばかり大人っぽくなったか。……そして昔と同じように、髪を下ろしている。昔と違い、髪は長くなっているが。


「やァ。久しぶりだネ」

「……ええ、本当に」


 男の言葉に、少女は静かな声で答える。この態度にも、変化を感じた。


 前は、恐怖に顔を歪めていたのに。無様に逃げることも、戦うことも出来ていなかったのに。

 今は、その視線が語っている。──静かな、戦意を。


 ぞくりと背筋が震えるのを感じた。これは、楽しい夜になりそうだ。


「分かっているんでしょう、Smile。……僕は、お前を倒しに来た」


 そう言うと少女は──伊勢美灯子は、日本刀を構える。その姿は、とても様になっていた。

 男は──Smileは、にぃ、と笑うと、灯子に告げる。


「まタ絶望に落としてあげるよ──伊勢美灯子」


 灯子は、答えない。代わりに、地面を蹴って。





 星が煌めき、少女は闇を切り裂く。





【第54話 終 第55話に続く】





第54話あとがき

https://kakuyomu.jp/users/rin_kariN2/news/16818093090991590752

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明け星学園 秋野凛花 @rin_kariN2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画