関係名

 というわけでやって来た、ゲームセンター。


「どうして遊びにとか……」

「だって俺だって、お前鍛えてるせいで放課後に遊ぶ時間とかあまり取れなかったし……今まで失くした分、取り戻したっていいだろ」

「それは……申し訳なく、思ってますけど……」


 確かに、春松くんだって花の高校生だ。当然、自分の時間を過ごしたいろうに……私に時間を使わせてしまって、自由を奪って、それは……私には、付き合う義理があるだろう。


「でも春松くん、友達とかいるんですか?」

「ド失礼だなお前。ていうか対人苦手そうなお前に言われたくないわ」

「いないんですか?」

「失敬な、普通にいるよ。……なんだよその顔、俺に友達いちゃ悪いのかよ」


 周囲の騒がしいゲーム機器に紛れ、私たちは言い合いをする。私の失礼な質問に対し、彼は訝し気な表情を浮かべていた。


「いや、だって……春松くん、1人が好きそうなイメージが……」

「……それは否定しないけど。でも、普通に話すくらいの友達ならいるよ。こうして放課後に遊びに来るのは、お前が初めてだけどな」

「……」


 これでもやるか、とクレーンゲームに迷いなく100円玉を投入した春松くんの隣で、私は固まる。

 春松くんがレバーを操作し始めたあたりで、私はようやく声を出した。


「……私たち、友達なんですか?」

「え? 違うのか?」


 アームの位置を決めたらしい。春松くんが決定ボタンを押すと、アームがどんどん落ちていく。そしてアームはぬいぐるみのタグの紐を捕らえると……穴まで運んでいき、そして、落とした。

 おお、と思わず拍手をする私。春松くんは受け取り口から大きなぬいぐるみを引っ張り出す。そして何故かそれをそのまま、私に渡してきた。もふ、と私の手に柔らかな感触が。


「な、何」

「じゃあこれ、友達記念に」

「……適当言ってません?」

「はは、バレたか」


 でもそれ、お前にやるよ。と春松くんは笑う。まあ、せっかく貰えるなら、と受け取っておいた。持って歩くには大きすぎるので、「A→Z」で消しておいたが。

 その後はゲームセンターを一通り歩き、興味の惹かれたゲームをやる、ということをやった。クレーンゲーム、レーシングカーゲーム、リズムゲーム、ガンアクションゲームなど……本当に色々やったので、たぶん2000円くらいは使ったと思う。


「あれでも撮るか?」

「嫌ですよ、カップルと思われたくないですし写真に写るのあまり好きじゃありません」

「めっちゃ早口で断るじゃん。冗談だよ」


 春松くんが指を指したのは、なんか箱のような写真機である。スマートフォンが普及したこの世の中、どうしてわざわざあれにお金を投入してまで写真を撮る必要があるのだろう、と思ってしまう。美肌効果とか、自動補正とかするらしいし、そうなったらもう写真の意味すらない気がする。ちなみに、女子、カップル、家族連れ以外入店NGとあるので、私たちが一緒に入ったら絶対カップルだと思われる。

 必死に断った私に、春松くんは苦笑いを浮かべていた。冗談という言葉通り、本気で言ったわけではないらしい。


 私たちはゲームセンター近くにあるベンチに座り、休んでいた。それぞれ自販機で買ったジュースを飲んでいる。春松くんはコーラ、私はりんごジュースだ。


「なんか俺がやりたいもんばっかやってたけど、お前は何かやりたいやつある?」

「いえ……特に」

「そうか。……お前って、こういうとこ来たことあるの? 友達いなそうだし、1人でこういうとこ来る性格でもないだろ」

「貴方もなかなか失礼ですね。……ありますよ。中学生の時に、1、2回」

「ふぅん」


 確かに、私は友人が少ない方だけれど。堂々と友達と呼べるのは、ココちゃんとか……あとは、春松くんも友達らしい。

 他にも仲がいい人はいるけれど、先輩とか仲間とか、そっちの呼び方の方がしっくり来るしなぁ……。


 ……言葉ことはちゃんとの関係は……なんだろう。


「じゃ、次行くか」


 春松くんはコーラを全て飲み干してから、立ち上がりつつそう告げる。私はそんな彼を見上げ、慌てて私も飲み干してから、彼に続いた。

 道中で飲み切ったジュースのペットボトルをゴミ箱に捨て、私は春松くんを見上げた。


「どこに行くんですか?」

「着けば分かるよ」


 質問をしたものの、はぐらかされる。それ以上聞いても教えてくれなそうだと思ったので、私は閉口したのだった。

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