ブレブレの写真
……また重々しくなってしまった部屋の空気。それを切り裂くように、大智さんが「ぁっ、あのッ」、と口を開いた。
「じゃ、ぁ、あの、えっと、僕も自己紹介っ……しますっ……!!
……尊、尊大智、ですッ。異能力は、ぇと、『露岩』……地面を操る能力、です、っ、ぁ、と言っても操れる範囲は半径10キロくらいでッ……っていうのは、この前のことで知られてるか……ぁ、ごめんなさいっ……。っ、だ、代償は、ぁ、一定時間の身体の硬直……ですっ、その、動けなくなりますっ……」
大智さんはつっかえつつも自己紹介を終える。そういえば泉さんの乗せられている盗難車を見つけた後、地面に大の字になっていたな……ということを思い出した。カーラさんはエネルギー切れだと言っていたが、あれは代償もあったのだろう。
そこで3人の視線が、私の方を向く。ああ、そういえばあとは私だけか、と思い出した。改めて自己紹介、面倒だな、と少しばかり思いながら口を開く。
「……伊勢美灯子です。異能力は『A→Z』と『Z→A』。『A→Z』は物を消す異能力で、『Z→A』は逆に物を生み出す異能力です。でも、消したことがあったり、そのものの構造をよく知っていないと取り出せません」
論より証拠の方が早いかと、私は真上に手をかざす。……次の瞬間、私の手の中には春松くんからもらった日本刀が握られていた。大智さんがか細く悲鳴を出し、そのまま後ろにひっくり返る。お陰でとても大きな音が響いた。……一応泉さん奪還の時に、同じようにしたはずなのだが。見てなかったのだろうか。
おいおい、大丈夫? と言葉ちゃんが椅子を立て直しながら声を掛けているのを横目に、私は続ける。
「……代償は、前者が自身の消失で……後者は、幻聴、ですかね。まあ、前者の代償は、研究員の人が言っていただけなので、実感したことはないんですけど……」
「え、それ大丈夫なの?」
「なんか、一度に消しすぎると自分も消えるらしいです。……そこまでやったことがないので、知りませんけど」
言葉ちゃんが弾かれたように顔を上げ、私に尋ねる。使っているのは私なのだが、実は私もよく知らない。試すにも、消えてしまえばそれは「死」だし。……結局、知らないままだ。だから私は、それだけ答える。
「俺は青柳泉。異能力は『Slot』。その場の運をランダムに決定するだけの能力だよ。代償は、異能の結果に関わらず不幸に見舞われること。よろしくね」
すると部屋の扉が開くと同時に、そんな自己紹介が聞こえる。全員でそちらを見ると、そこには片手に書類、もう片方の手でこちらに手を振る泉さんの姿があった。
「……運を調整……」
「伊勢美、今、よっわって思ったでしょ。大丈夫だよ自覚あるから」
「いや、貴方のことは強いと思ってますけど……」
そう卑下されても、という気持ちを込めて素直に思ったことを告げておく。そう? なんて泉さんは笑った。……目はあまり笑っていない気がするが。
「ついでに密香の紹介もしておくよ。忍野密香、異能力は『Navigation』と『Noxious』。『Navigation』は皆も知ってる通り、会ったことのある特定の人物の居場所をリアルタイムで把握するっていう能力。『Noxious』は、有害物質を作り出すことが出来るっていう……まあ簡単に言うとそういう能力だよ。
代償は、『Navigation』が自分の存在が消えていくっていうもの。『Noxious』が生み出した物質が自分の体内に回るっていうもの。……まっ、また異能を使えば相殺出来るみたいだけどね」
その言葉で、先程言葉ちゃんが「異能力で代償というデバフを克服出来る」と言っていた意味が分かる。……本当に恐ろしい能力だ。
「で、そのご本人は?」
「お前みたいな性根の腐ったウジ虫野郎と一緒にいたくないってさ」
それを笑顔で言うということは、やはり気にしてないのだろうか。質問を投げかけた言葉ちゃんは、あの野郎、なんて呟いているけど。
まあ、どうせどこから見てると思うよ。機嫌直ったら出てくるだろうし。と泉さんは続けた。扱い方に慣れている感じがする。
忍野さんの話題もそこそこに、泉さんは持っていた書類を私たちに配り始める。受け取ると、そこにはブレブレの写真と経歴書のようなものが。……ショッピングモールの件の前に貰った書類と似たものだ。
「さっきの話の続きだけど、『五感』逮捕に向けて、本格的に動き出す。……今渡したのは、最初に逮捕に向かおうと思っているやつについての情報だ」
そう言われて、改めて書類を読み込む。……が、目を引かれるのは、ブレブレの写真で。
何か人影があるのは分かる。だがその人物は高速移動でもしているのか、全くピントが合っていない。男か女か、身長はどれくらいか、どんな体格か。そのような視覚情報を一切与えてくれない。
「……ま、その写真が気になるよな。それこそが、そいつが『五感』の1人として恐れられる理由だよ」
「……え?」
泉さんに横から覗き込まれ、笑われる。私はというと、泉さんのその言葉を聞き返した。
「こいつは
その説明を聞き、私は
「で、そこまではいいんだよ。運動会とかヒーローになれるだろうし。……問題はここから。こいつは異能力を使って、数々の通り魔事件を行ってるんだ。成長と共に異能力の精度が上がっているから、こいつが本気を出せば、その姿は誰にも気づかれることはない。窃盗とかならまだ良かったんだけどね……。こいつは異能力を使って、殺傷事件を起こしている。通りすがりに身体を切り裂いているんだ。……ものすごい風が吹いたと思ったら、腕がなくなっていた。被害者からしたら、そんな感じらしい」
「ひぇっ」
泉さんの話に、大智さんが震えながら悲鳴を上げる。確かにその光景は、想像するだけで片腕が痛くなってくる。
「その写真も、運良く何とか写せたものなんだ。今はそれが限界。もちろん、捕まえるのは至難の業。……そもそも誰もこいつが今どんな顔をしているのか、知らない。姿が目に映ることはない。
……だから風桐迅は『五感』の中で、『視覚』と呼ばれているんだ」
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